社説(7月21日) 医療的ケア児 支援法生かす仕組みを
鼻や腹部からチューブで栄養を送ったり、人工呼吸器を装着したりと、日常的に医療のサポートが必要な子どもと家族を国と自治体が支援するよう定めた医療的ケア児支援法が成立した。
在宅の19歳以下の医療的ケア児は、厚生労働省の推計で全国で約2万人。新生児集中治療室(NICU)の整備など医療技術の進歩によって10年間で倍増したといわれるが、サポート体制が追い付いていないのが実情だ。
昼夜を問わないたんの吸引など家族の負担は大きい。生活の大部分を子どものために費やすことも珍しくない。学校などで付き添いが求められ、離職せざるを得ない状況に追い込まれるケースもある。
支援法は、医療的ケア児の日常生活を社会全体で支えると基本理念に掲げている。国や自治体は家族の負担をできる限り軽減するような仕組みづくりに努めなければならない。
医療的ケア児については2016年に改正された児童福祉法で、自治体が医療や福祉分野と連携し、支援に努めるよう義務付けた。だが、家族が求めるニーズに十分応えられているとは言い難い。議員立法で制定された支援法は、ケア児がほかの児童とともに教育を受けられるよう最大限に配慮し、適切な教育支援を行うため学校や保育所に、看護師などを置くよう求めた。
浜松市は医療的ケア児の支援に関して先進的な地域といえるだろう。17年度から医療的ケア児が通う公立学校に看護師を配置し、本年度は小学生6人が支援を受けている。通学・通園の移動支援として資格を持つヘルパーの付き添いも20年度から認めている。
こうした支援は家族の負担軽減だけでなく、子どもにとってもメリットは大きいと、ケア児と関わる市内の医療関係者は語る。親がずっと付き添っていると、子どもが甘えてしまい、成長につながらないという。
支援の充実には人材の確保がかぎを握る。浜松市は看護師や保健師、養護教諭などを対象に医療的ケア児の支援者を養成する講座も開いている。浜松市の取り組みは18年秋の台風による大規模停電も教訓になった。医療機器の電源の確保が困難になった医療的ケア児もいたが、行政がケア児の実数などを把握していなかった。
医療的ケア児の心身の状態はそれぞれで、必要な支援も一人一人異なる。自治体が支援の充実を図るには、各地域のケア児の実態を知ることが前提になる。ただ、自治体には財政力に差がある。地域間で不公平感が生じないよう国の支援は欠かせない。