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特集 : こち女

尊厳守る介護 思いやりの笑顔で心を形に【こち女】

 静岡県内約5万4000人が従事している「介護職」。年に1度、専門性を競う「介護技術コンテスト(通称ケアコン)」(県主催)は技術向上と同時に、県民の介護に対する理解を深める狙いもあるという。第9回の2020年度最優秀賞を受けた介護福祉士は現場で日頃、どんな努力を重ねているのか。受賞時の実技を基に解説する。

2020年度介護技術コンテストで最優秀賞の芦沢理子さん=5月、静岡市葵区の特別養護老人ホーム「楽寿の園」※撮影時のみマスク未着用
2020年度介護技術コンテストで最優秀賞の芦沢理子さん=5月、静岡市葵区の特別養護老人ホーム「楽寿の園」※撮影時のみマスク未着用
足元にマットを敷き、マルチグローブでシーツを伸ばす岡本拓洋さん
足元にマットを敷き、マルチグローブでシーツを伸ばす岡本拓洋さん
シーツを伸ばす「マルチグローブ」はビニール製の買い物袋で代用できる
シーツを伸ばす「マルチグローブ」はビニール製の買い物袋で代用できる
汗を拭ける所があるか尋ね、自立支援する
汗を拭ける所があるか尋ね、自立支援する
2020年度介護技術コンテストで最優秀賞の芦沢理子さん=5月、静岡市葵区の特別養護老人ホーム「楽寿の園」※撮影時のみマスク未着用
足元にマットを敷き、マルチグローブでシーツを伸ばす岡本拓洋さん
シーツを伸ばす「マルチグローブ」はビニール製の買い物袋で代用できる
汗を拭ける所があるか尋ね、自立支援する

 (加藤愛己)

 ■相手を理解し信頼築く 技術審査最優秀賞の芦沢さん(静岡)
 「上田さん、いい音楽が流れてきました。『ブルー・シャトウ』です。だるさも落ち着いてきましたか」。特別養護老人ホーム「楽寿の園」(静岡市葵区)の介護福祉士芦沢理子さん(34)は「上田さん」=要介護者役。要介護3、80歳想定=と朗らかに会話しつつ着替えを介助している。介護職員の前とはいえ裸を見せるのは恥ずかしいはずと思い、CDプレーヤーから聞こえる、上田さんの大好きな昭和歌謡を一緒に楽しみ、尊厳を守った。
 審査講評で「リラックスした状態でスムーズにケアしている」と高く評価された介護場面だ。
 20年度ケアコンは新型コロナウイルス禍で食事と排せつの各部門を中止し、入浴部門に限定した。競技課題は微熱でだるさがある要介護者のパジャマを横になったままで着替えを介助する。
 歩行は可能。会話も臨機応変にできるが、リウマチで指は変形し、両腕の可動域も限られ、動かすと痛みが増す-と想定。実技は10分以内で、事前撮影した動画で審査した。静岡福祉大卒業と同時に入職した芦沢さんは7回目の挑戦で最優秀賞に選ばれ、「思いやりの笑顔で心を形にする介護に努めている」と話した。
 実技では、芦沢さんはまず、しゃがんでベッド上の上田さんと目線を合わせてあいさつした。凜[りん]としたたたずまい。布団に手を添え、ぬくもりで安心させる。
 「上田さん」と敬称で呼ぶのは、要介護者の尊厳を守るためという。尊厳を保持し、有する能力に応じ自立した生活を営めるようサービスを提供するのが介護保険法の目的。同施設は高齢者虐待防止法を踏まえて言葉遣いも重視し、評価基準を作成して適正化している。「ちょっと待っててね」など親しみを感じさせる言葉遣いは一方で、なれ合い、さらに要介護者の尊厳を傷つける可能性を考慮して使用をあえて禁じている。
 次に「体がだるくて痛みがあると聞きました」と体調を確認。優しい表情で共感し、つらさを受容した上で「痛みに注意します」と病状に配慮することを宣言。準備のためベッドから離れると伝えた。事前に理由を説明すると不安は和らぐ。
 準備を終え、ベッドの高さを調整する。介護職員にとって自身の腰痛予防は職務上、必須だ。「お手伝い(介助)しやすいよう、全体的にベッドを上げます」と分かりやすく説明し、協力を求めた。
 同時にとっておきの介護技術を繰り出す。昭和歌謡に関する会話だ。前日に上田さんが歌を披露した話題から切り出し「歌声が聴けてうれしかったです」と続けた。芦沢さんは事前の情報収集で愛好歴を把握。ケアプランに基づく「個別援助計画書」で居室にCDプレーヤーを置き、音楽を毎日聴いて笑顔で過ごせるよう盛り込んでいた。要介護者と信頼関係を築くには「人生を丸ごと理解しようとする努力が大切」という。
 布団をタオルケットに替え、足元にマットを敷いた後、上衣から着替える。最初に「ボタンが四つあります。どれか一つ外せますか」と尋ねた。これは、残存能力を生かした自立支援だ。指を動かせば痛むが、できることは続けたいと望む上田さんの意思を尊重する。
 できない時は介助する。できた時は介護に協力してくれたという意味を込めて「ありがとうございます」と感謝の言葉を掛ける。人に迷惑を掛ける存在と憂う要介護者に、「人の役に立てた」と自信を回復してもらう。自立支援とは尊厳を守ることにほかならない。
 上衣の前が開くと、再び自立支援のため「汗を少し拭けますか」と尋ね、できた上田さんに感謝を伝える。右袖を脱がすと同時に新しい上衣の右袖に腕を通す。その状態で体を横向きにし、背中にクッションを添えて安定させ、汗を拭いて、あおむけに戻す。左側も同様だ。
 病状を理解して痛みに配慮し、自立支援を織り交ぜながら素早く着替えを進め、並行して会話を楽しむ-。一連の介護は同僚の先輩や看護師、理学療法士ら多職種に相談し、作成した個別援助計画書に基づく。同計画書に会長賞を贈った県介護福祉士会の理事、増田知佐子ケアコン実行委員長(55)は「必要なケアを計画し、実践できた」とたたえる。芦沢さんの学生時代の担当教授で、7人目の最優秀賞を輩出した楽寿会の有馬良建理事長(63)は介護技術を創造的に発展させているとして「専門性を駆使したプロの介護。心を形にする芸術」と解説する。
 着替えが下衣に差し掛かると、芦沢さんはこう言って上田さんを励ました。「明日は日曜日。ご家族が面会にいらっしゃいますね。天気予報を確認しましたら、秋晴れです。お散歩日和です」。パジャマとシーツのしわを伸ばして褥瘡[じょくそう]防止を徹底し、介護を終えた。
 
 ■今年度 雇用目標は200人
 静岡県が4月公表した第9次県長寿社会保健福祉計画によると、2025年時点で介護福祉士など介護職員は需要推計6万2988人に対し、供給推計5万7222人と需要に供給が追い付かないとされる。同年は人口が多い団塊世代が全て後期高齢者の75歳以上となる。
 介護人材確保対策で実績を上げているのは16年度に始めた介護人材育成事業。関連施設で実務を経験しながら介護資格取得の研修を受けてもらい、直接雇用につなげる。この間の賃金と研修費を県が全額負担する。
 20年度はコロナ禍に伴う求職者増に対応し、雇用目標を当初より50人増の150人とし、過去最多162人が直接雇用された。21年度は雇用目標200人とし、参加者を募集している。
 21年度はさらに介護ロボットやICT(情報通信)機器を導入した介護事業所に対する助成を拡充。第10回ケアコンは秋に開催予定。
 
 ■福祉用具 身近な物で代用
 在宅介護の際、芦沢さんが使った福祉用具は身近なもので代用できる。2015年度ケアコン最優秀賞受賞者で、県「介護の未来ナビゲーター」でもある「楽寿の園」の介護福祉士岡本拓洋さん(40)に聞いた。
 褥瘡を防ぐためにシーツを伸ばす「マルチグローブ」はビニール製の買い物袋を手にかぶせて代用する。介助時、横になった状態の要介護者の足元には滑り止めマットを敷く。マットは100円ショップで購入可能。踏ん張ることができて寝返りしやすく、介護者も体の向きを変えやすい。「ささいなことだが、活用すると効果は大きい」と薦める。

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