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相次ぐ予約キャンセル 観光のまち覆う暗い影【緊急報告 熱海土石流⑤完】

 熱海経済の基盤を支える観光業。大規模な土石流が発生した熱海市伊豆山の宿泊施設は断水や通行止めなどの影響で臨時休業を余儀なくされた。被害がなかった中心市街などでも、予約キャンセルが相次ぐ。観光事業者は安否不明者の捜索やライフラインの復旧が最優先との共通認識でいる。夏の行楽シーズンが目前に迫る中、土石流災害は新型コロナ下で厳しさを増す温泉街に、さらなる影を落とした。

土石流が発生した伊豆山地区にあるホテル。営業再開のめどは立っていない=8日午後、熱海市内
土石流が発生した伊豆山地区にあるホテル。営業再開のめどは立っていない=8日午後、熱海市内

 「温泉のポンプ小屋が土石流で壊れた。営業再開のめどは立たない」。伊豆山地区にあるホテルの男性従業員(65)は肩を落とす。電気とガスは早期に復旧したが、水道は8日午前にやっと使えるようになった。それまでは、近くの貯水タンクに従業員が水をくみに行っていたという。
 熱海温泉ホテル旅館協同組合によると、市内では7月のホテルや旅館の予約の8~9割がすでにキャンセルになった。避難者55人を受け入れている同市熱海のホテルニューアカオはコロナ禍で21日まで休業中だが、夏休みに合わせ再開予定。ただ、土石流の発生後に一部の予約がキャンセルになった。
 熱海市観光協会の中島幹雄会長は「観光客からは、市全体が被害に遭って危険との印象を持たれているのだろう」と分析する。夏は海開きや海上花火大会があり、観光の書き入れ時。新型コロナのワクチン接種が進み、東京五輪・パラリンピックも控える中で、観光需要回復への期待感は大きかった。各種イベントは現時点で、実施するという。中島会長は「経済を回さないと市全体が疲弊する」と懸念する。その一方で「被災者を思うと、(イベントを)開催してもいいのか」と複雑な胸中を明かす。
 8日の市内は断続的に雨が降り、3日に2人の遺体が見つかった伊豆山港には泥混じりの濁水が勢いよく流れ込んだ。捜索活動は雨の強さが増すたびに中断した。いまだに22人の安否が不明で、500人以上が避難する。
 避難生活は長期化が予想される。ホテルニューアカオは「まずは避難者の暮らしが大事」と協力を惜しまない。熱海温泉ホテル旅館協同組合の森田金清理事長も「観光業界だけが悲鳴を上げるわけにはいかない」と話し、市民一丸で乗り越えていくと誓う。

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