テーマ : サクラエビ異変

濁水がサクラエビ卵のふ化、幼生の成長を阻害 荒川教授(東京海洋大)実験、確認【サクラエビ異変 母なる富士川】

 サクラエビの主産卵場の駿河湾奥に日本軽金属の放水路や富士川から強い濁り水が注いでいる問題で、東京海洋大学術研究院の荒川久幸教授(58)=海洋光環境学=の研究グループは28日までに、濁りの主成分である微細な無機粒子がサクラエビの卵のふ化や幼生の成長を阻害するとの実験結果を明らかにした。同様の研究で貝類や魚への影響は確認済みだが、サクラエビについてデータの取得は初。9月に開かれる日本水産学会秋季大会で発表する。

実験で無機粒子が付着し動けなくなって死んだサクラエビの幼生。濁り濃度1リットル当たり50ミリグラム(荒川教授提供)
実験で無機粒子が付着し動けなくなって死んだサクラエビの幼生。濁り濃度1リットル当たり50ミリグラム(荒川教授提供)
実験で無機粒子が付着しふ化しなかったサクラエビの卵。濁り濃度1リットル当たり150ミリグラム(荒川教授提供)
実験で無機粒子が付着しふ化しなかったサクラエビの卵。濁り濃度1リットル当たり150ミリグラム(荒川教授提供)
研究グループが確認した濁りの影響(要旨)
研究グループが確認した濁りの影響(要旨)
荒川久幸教授
荒川久幸教授
実験で無機粒子が付着し動けなくなって死んだサクラエビの幼生。濁り濃度1リットル当たり50ミリグラム(荒川教授提供)
実験で無機粒子が付着しふ化しなかったサクラエビの卵。濁り濃度1リットル当たり150ミリグラム(荒川教授提供)
研究グループが確認した濁りの影響(要旨)
荒川久幸教授

 荒川教授は、濁りと海中生物の生態系に関する研究の第一人者。濁りのない状態でほぼ100%ふ化した卵は、濁り濃度の上昇とともにふ化率が低下。最大濃度の1リットル当たり200ミリグラムで約50%まで低下し、死んだ卵には無機粒子が多数付着している様子が観察された。未解明であるサクラエビの深刻な不漁の要因究明に、また一歩近づいた。
 荒川教授は春漁が行われていた5月下旬、サクラエビ漁船に乗り、「アタマグロ」と呼ばれる産卵間近な親エビを百匹程度採取した。研究室に持ち帰り、海の環境に近い特殊な水槽で飼育を始めた。実験は、産まれた卵や成長した幼生がいる水槽に無機粒子(平均粒径約2マイクロメートル)の濁り水を投入。顕微鏡で観察を続けた。
 最大濃度の水槽で半数の卵が無機粒子が多数付着した状態でふ化しなくなったほか、ふ化から約3日間の幼生に同50ミリグラムを超える濁りを与えると変態(脱皮)が遅くなり、次段階の幼生に移行できないものが増えた。
 たとえ変態できたとしても、濁りを与え続けると無機粒子が幼生に付着。泳ぐことができず、実験容器の底をはうように動き、最終的に死ぬ様子が確認できた。
 荒川教授は「少なくとも、無機粒子がサクラエビの生残に悪影響を与えることは分かった」と説明し、放水路や富士川から濁りが供給され続けている駿河湾奥で何が起きているかをさらに精査する必要性を説いた。
 サクラエビの主産卵場でメイン漁場となってきた湾奥の富士川沖では2019年ごろから漁師らが強い濁りを指摘。事実上の禁漁にもかかわらず、富士川沖だけ魚影がない状態が今年の春漁まで続いている。
 (「サクラエビ異変」取材班)

いい茶0

サクラエビ異変の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞