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特集 : 大自在

大自在(6月28日) 訓蒙図彙

 江戸時代前期、京都に中村惕斎[てきさい](1629~1702年)という儒学者がいた。「わが家には子どもがいるが、その子に物事を教えてくれる乳母も教育係もいない」と、書物の編纂[へんさん]を思い立った。
 日本初の絵入り百科事典「訓蒙図彙[きんもうずい]」は教育目的で生まれた。天文[てんぶん]、地理、人物、動植物、道具など森羅万象1400項目超の語彙の絵解きはたちまち評判になり、子ども向けだった書物がやがて貴人や外国人にも読まれるようになった。
 国際日本文化研究センター(日文研、京都市)の石上阿希特任助教(藤枝市出身)が研究成果を「江戸のことば絵事典」(角川選書)にまとめた。抄出された項目には麒麟[きりん]や鳳凰[ほうおう]など実在しないものもある。将軍に寄進された記録はあるが実物を見た人は少なかった象も取り上げている。
 鰐[がく](ワニ)の絵は目や足の感じが少し違うが、要所は押さえられていて、惕斎の情報収集力がうかがえる。「ことばを習い始めた子どもにとって、どれほど楽しかったことでしょう」と石上さん。現代の図鑑好きな子に通じよう。
 一目瞭然と言うように、図表は理解を格段に促す。今は国語辞典にも絵図が効果的に使われている。本欄は文字だけで伝えなければならず、毎回、難儀している。
 ところで、絵では表せないものがある。自由、民主主義、基本的人権…。どうすれば子供たちが正しく学べるかを考えなければならない。訓蒙図彙は日文研の「近世期絵入百科事典データベース」にデジタル化されている。そこには「雨傘」があり、「来禽[らいきん]」はリンゴのことである。

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