大自在(6月10日) 名演説

 人類史には数々の名演説が刻まれている。「私には夢がある」と語ったのは米国のマーチン・ルーサー・キング牧師。子供たちが肌の色ではなく、人格で評価される当たり前の時代が来ることを願って公民権運動の火を燃え上がらせた。
 日本の歴史上に画期をなした代表的な名演説の主の一人といえば伊豆の国が生んだ尼将軍北条政子だろう。後鳥羽上皇による鎌倉討伐の院宣に動揺する御家人たちを前に「故右大将軍(源頼朝)の恩は山よりも高く、海よりも深い」と亡き主君の恩を思い起こさせ、げきを飛ばした。
 心を打たれた御家人は一丸となり、19万の大軍で京に攻め上った。承久の乱で決した武家政権支配の流れは明治維新まで続くことになる。歴史を動かした大演説は1221年の旧暦5月19日。ちょうど800年前のきょうのことだった。
 時は流れて令和の時代。知事選の候補者は17日間にわたる選挙戦の真っただ中にある。告示日の第一声などの演説内容は本紙デジタルニュース媒体「あなたの静岡新聞」で全文書き起こしや動画が閲覧できる。
 誰でもいつでも候補者の演説を見聞きできる時代になった。ただ、最近の演説にどれだけ心を動かされるか。歴史的な名場面と比べるものではないが、総花的な美辞麗句や対立候補の批判が延々と続けば聞く側もうんざりする。
 知事選に限らず、投票率の低下が叫ばれて久しい。パフォーマンスになっては本末転倒だが、熱く夢を語り、人々の不安に真に寄り添った名演説が生まれれば選挙への関心はもっと高まるに違いない。

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