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社説(6月9日) 富士川の化学汚泥 徹底調査と迅速対策を

 富士川の中下流域に堆積した化学物質汚泥について、山梨県は調査と有識者会議設置を決めた。静岡県も協力を表明した。
 流域住民の生活環境や健康にかかわる可能性もある問題である。言葉だけの協力でなく、両県が車の両輪となる体制を整えて徹底して調査し、迅速に対策をとるよう求める。静岡県の当事者意識が問われる。
 化学物質とは石油由来のアクリルアミドポリマー(AAP)に代表される高分子凝集剤成分のことで、魚毒性の高い物質なども含まれる。異様な弾力のある汚泥の問題は本紙「サクラエビ異変」取材班が不漁問題で浮かんだ富士川水系の濁りを端緒に追っている。
 サクラエビの2021年春漁の漁獲量は140トンで19、20年に比べればやや上向いたが、資源危機が深刻化した18年春漁の半分も水揚げされなかった。富士川河口はサクラエビ産卵海域の駿河湾奥に近い。富士川だけでなく、駿河湾でも汚泥の調査が必要だ。
 AAPは土砂や油などの凝固剤として使われる。毒性は不明だが、分解したアクリルアミドモノマー(AAM)は強い毒性を持ち、劇物指定されている。
 本紙取材班は19年5月、富士川水系の雨畑川(山梨県早川町)に産業廃棄物の汚泥が不法投棄されていることを報じた。山梨県は野積みされた凝集剤入り汚泥を撤去させたが、局所的対応で幕引きしたという批判もある。
 汚泥は現場から離れた富士川本流の中下流でも確認。取材班が東京海洋大の協力で分析したところ、雨畑川で不法投棄された凝集剤成分の残留が強く疑われる結果となった。
 流域住民には、河川に流出した粘着性の汚泥が河床を覆い、アユの餌になるコケや川虫が生息できない状況になっているとして、「死の川」と例えて生態系破壊を危惧[きぐ]する声がある。
 化学物質汚泥の問題は今国会でも取り上げられ、小泉進次郎環境相は「静岡県、山梨県から要望や相談があれば、関係自治体や国交省と連携して適切に対応したい」と述べた。両県知事が調査を表明したのはこの後だ。
 サクラエビの不漁が深刻化した後、静岡県は19年に「『森は海の恋人』水循環研究会」を設置し富士川と大井川で「陸域からの栄養物質と海域のプランクトンとの関係解明」に取り組んでいる。森と海のつながりを阻害する経済行為や化学物質についても考察してもらいたい。
 水の採集や分析は大切だ。だが、不気味な汚泥が蓄積した現場に足を運び、流域住民や釣り人、駿河湾の漁業者の声を聴くのが第一歩だ。

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