リニア中央新幹線 利水支障なら“拒否権”【静岡県知事選 “国策”と県政①】

 静岡県行政のトップとして知事は大きな権限を握っている。ただ、県民生活に影響を与える施策には国が主導する事業や政策もあり、自治体だけで解決できる問題ばかりではない。県政が直面する課題や行政の仕組みを踏まえ、〝国策〟に向き合う次期知事に求められる資質や県の役割を探った。

リニア中央新幹線のトンネルが計画されている大井川上流=昨年9月、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
リニア中央新幹線のトンネルが計画されている大井川上流=昨年9月、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 大井川の利水者に懸念が広がるリニア中央新幹線工事。水源を貫く南アルプスルートを実質的に決めたのは国とJR東海だ。幅25キロの大まかなルートが本格的に議論されたのは2010年10月、国土交通省交通政策審議会小委員会が開いた非公開会合だった。直後に公表された議事要旨には「従来のトンネル工事の難度と大きくは異ならず、トンネル工事を理由に直行(南アルプス)ルートを否定的に見るのは不適当」と見解が示されたが、誰がこのルートを支持したのか、大井川の水に関する議論があったのかの記載はない。
 3年後、詳細なルートが決まると、JRは大井川の水が毎秒2トン減ると説明し始めた。「すごい数字だ。大変なことになる」。元県議で当時大井川土地改良区理事長だった八木健次さん(87)=焼津市=は危機感をあらわにし、JRや県、国会議員らに意見書を提出するなど奔走した。
 現在、静岡工区の着工の“歯止め”になっているのは14年10月の太田昭宏国交相(当時)の発言だ。事業認可時、JRに「地元住民等への丁寧な説明を通じた地域の理解と協力を得ること」を条件に課した。ただ、法的拘束力はないとされる。
 一方、川の下にトンネルを掘る際の河川法に基づく許可権限は県にあり、「治水、利水上の支障を生じる恐れがないこと」が基準になる。国交省専門家会議では、JRの想定で、トンネル掘削時に小学校プール約1万個分(300万~500万トン)の大井川流域の水が山梨県に流出すると明らかになった。
 ルートの決め方を定めた全国新幹線鉄道整備法に沿線知事の権限は記されていない。ただ、県は国から河川法の一部権限を委託されており、利水に支障がないとJRが根拠を示して説明できなければ、県は同法の審査を通してルートに事実上の“拒否権”を行使できる。ある利水者は「公開の場で科学的に議論し、その見解を尊重する姿勢を」と次期知事に注文を付けた。
 
 ■知事・県の役割 
 ルート変更の権限なし
 リニア中央新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画の一つ。国土交通相による計画の決定や変更には事業者の同意が必要だが、沿線自治体に権限はない。ただし、大井川上流では県が国から河川法の権限の一部を委託されている。県の想定では、川の下をトンネルが通る6カ所で河川占用や工作物新築の許可が必要。JR東海からの許可申請はまだ出ていない。他県では、もろい地質や川に並行した掘削を原則として認めない指針を定めた例がある。
 
 ■候補者の見解
 Q リニア中央新幹線事業への賛否を教えてください。大井川中下流域の水利用や南アルプスの自然環境に影響を及ぼすと考えますか。 

 川勝平太氏 立ち止まり見直す時
 私は(国土交通省の)国土審議会委員としてリニア中央新幹線に長く関与し、意義を十分に認識している。だが、コロナ禍で社会情勢は大きく変わった。いったん立ち止まり、リニア中央新幹線全体について見直す時が来た。

 岩井茂樹氏 現時点で工事認めず
 知事はリニア中央新幹線事業への賛否を述べる立場ではないが、流域の皆さんの理解が十分に得られていない現時点で静岡工区の工事を認めることはできない。水利用や自然環境には必ず何らかの影響を与えるが、影響の度合いについては科学的な検証がいまだに十分ではない。まずは科学的な検証を急ぐべき。

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