川勝氏/岩井氏 政策対談詳報㊤ 静岡県知事選

 6月3日告示、20日投開票の静岡県知事選を前に静岡新聞社が企画した政策対談で、立候補を表明した現職の川勝平太氏(72)と元参院議員岩井茂樹氏(52)=自民推薦=が主張を繰り広げた。新型コロナウイルス感染症対策や県内市町で始まったワクチン接種に言及し、リニア中央新幹線工事に伴う大井川流量減少問題も話題になった。

川勝平太氏/岩井茂樹氏
川勝平太氏/岩井茂樹氏


 ■Q1 コロナ対策   
 新型コロナウイルスの県内累計感染者数が8千人を超えました。感染力の強い変異株への置き換わりが進んでいます。県がとるべき対策は何でしょうか。
         
 医療従事者に続き、65歳以上の高齢者へのワクチン接種が各市町で始まりました。国は高齢者接種の7月末完了を求めています。接種を円滑に進める必要がありますが、市町の現場には一部混乱が見られます。
 感染症の世界的流行は社会経済活動や教育、スポーツなど多くの分野に影響を及ぼし、改めて知事のリーダーシップ、政策立案能力が問われています。東京五輪・パラリンピックの聖火リレーや大会開催の是非についても議論が続いています。

 川勝平太氏「検査充実し専門病院を」
 コロナ対策の入り口は検査体制、出口はワクチン接種。この二つが極めて重要だと当初から主張してきた。変異株に対応するため、日本は検査体制をさらに充実させる必要がある。従来の国防は「防衛」と「防災」だったが、今後はさらに「防疫」の意識が必要。本県は医師少数県のため感染症に対応する専門病院も必要だ。
 高齢者ワクチン接種の7月末完了という国の要請は現場に大混乱を起こした。政府の対応は場当たり的。ノーベル賞受賞者ら本当の専門家を活用した形跡が見えない。県は35市町の首長とウェブ会議を開き、県の集団接種会場設置やワクチンチーム派遣を決め、国には医師の休業補償を求めた。県と市町の情報共有ができていたから、何とかほぼ全市町で7月末に完了できる見通しとなった。
 東京五輪・パラリンピックは、できるならやればよいと思っている。本県が進めてきた準備は、ラグビーワールドカップのように自転車競技の文化を根付かせるもの。既に県内を拠点とするチームが生まれ、各地にコースもできた。五輪憲章の精神に基づく文化プログラムも既に多く行われている。競技人生の頂点を迎えたオリンピアンの願いをかなえたいとの気持ちもある。

 岩井茂樹氏 「地元愛持つ医療者育成」
 自民党でさまざまなコロナ対策に携わった。まずはワクチン接種をいかにスピード感を持ってやっていくか。そのためにはマンパワーなどの医療資源を増やす努力をしなければならない。近隣自治体との連携や県内医療機関の情報共有を進め、限られた資源を活用していく。高齢者接種を7月末までに完了させるため、最前線で取り組む市町を県がしっかりと支えることを重点に考えている。国の至らないところを県が穴埋めし、市町と連携して対応していく。民間のノウハウやアイデアも生かしながら県民全体で臨む姿勢が重要だ。
 本県は人口10万人当たりの医師数が全国40位前後。豪雨災害や地震災害に対応できる医療体制を、県として責任を持って考えていく。医者や看護師のトレーニングやスキルアップに使える施設をつくり、静岡のために働きたいという地元愛を持った医療関係者を育成していきたい。
 私自身、水泳で五輪を目指したことがあり、アスリートの思いはよく分かる。感染拡大が抑えられ、環境が許されるなら、国民の気持ちを変えられるという期待もある。国には水際対策を強く求めたい。地域医療に影響を与えないような配慮も必要だ。

 ■Q2 リニア水問題
 リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事で心配される大井川の流量減少問題の解決にどう対応しますか。
         ◇ 
 JR東海の対策を検証する国土交通省専門家会議は中間報告案を示しました。「トンネル湧水の全量戻し」の現実的方法はあるのか、全量戻しをすれば環境への影響を回避できるかなど課題が山積する中、報告案はJRの対策をおおむね認める内容です。
 着工の遅れで「静岡悪者論」が散見される中、ルート変更や工事の中止、凍結を選択肢として国やJRと対峙(たいじ)していくのかどうか、流域市町の住民は注視しています。リニア開業に伴う東海道新幹線沿線の恩恵についても検証が必要です。

 川勝平太氏「立ち止まった方がいい」
 県の有識者会議がJR東海に問題点をぶつけ、その回答が不十分だったので、国土交通省から専門家会議を設置したいという話があった。設置時に会議の全面公開が約束だったが、専門家会議は11回開催し、1度も全面公開されていない。県の有識者会議は公開している。約束を守らないのは最悪だ。
 JRはトンネル湧水を全量戻せるとしていたが、(掘削時にトンネル内に大量に水が湧き出る)突発湧水が出て危険だから戻せないと言い始めた。少なくとも300万~500万トンが山梨県に流出し、永久に戻らない。専門家会議は全量戻せない代わりに、貫通後の山梨県の湧水を20年かけて戻す案をまとめた。この代替案は相当リスクが大きい。
 リニア事業に反対ではないが、事前調査が不十分だと専門家会議で明らかになってきた。JRは環境や水資源がいかに重要かを知らずに今日に至っている。コロナ禍ではオンラインでいろいろなことができるようになり、JRは赤字だ。脱原発の流れの中で原発に依存せず、どうリニアの電力を供給するのか。南アルプスで事故が起きたらどう避難するか。乗客数が従来の予想と同じかという問題もある。いったん立ち止まった方がいい。

 岩井茂樹氏「JRの環境アセス甘い」
 国土交通省専門家会議に関しては、県とコミュニケーションがうまく取れていないのが問題。会議があまりオープンになると自由に意見が言えないという話が委員からあったようだが、公開のスタンスは重要だ。(山梨県のトンネル湧水を貫通後に20年かけて戻す)中間報告案は決まったわけではない。斜坑を掘って先に水を抜けば流出量の500万トンの条件は変わる。今の土木技術で工夫できるかもしれないし、できないかもしれない。
 科学的、技術的な根拠に基づいて検討しないとOKと言えず、JR東海の環境影響評価(アセスメント)はまだ甘い。流域の話を聞き、JRの説明が住民目線でない印象を受けた。県民の思いをJRと国交省に伝える役割をしたい。
 ルート変更を決めるのは基本的に事業者だが、このような状況で工事は進められず、いろいろな選択肢を考えるのが当たり前。(リニアを推進する)自民党の所属だったが、知事は県民のために何をするかだ。流域が水に苦労しないようにすることが課題で、目的をはき違えてはいけない。国交副大臣として、流域全体を見渡した治水にかじを切る流域治水の法案を成立させた。利水も流域全体のニーズを考えたい。

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