文化政策 一流求め、トップが先導【検証 川勝県政12年⑤完】

 「演劇を通じて人種差別をなくしたい」「夢は人の心を動かすダンスアーティスト」-。4月、県が高校生を対象に新設した「演劇アカデミー」の入校式。“1期生”16人が顔を合わせ、将来を見据えて抱負を述べた。運営を委託された県舞台芸術センター(SPAC、静岡市駿河区)の宮城聰芸術総監督は「一流の芸術家と出会い、広い世界へ飛び出すための準備をしてほしい」と激励した。

SPAC作品を観劇した高校生を見送る出演俳優。継続的な招待公演で演劇の魅力を伝えている=2019年11月、静岡市駿河区の静岡芸術劇場
SPAC作品を観劇した高校生を見送る出演俳優。継続的な招待公演で演劇の魅力を伝えている=2019年11月、静岡市駿河区の静岡芸術劇場

 県が2021年度から世界を意識して本格的に推進する「演劇の都」構想の目玉事業。構想は国際的にも評価を受けるSPACを核に、国内外で活躍する演劇人の育成や交流人口の拡大、地域の活性化を目指す。周辺からは「知事が川勝さんでなければ実現はなかっただろう」との声も聞かれる。
 東京五輪・パラリンピックの文化プログラムを土台に発足した「アーツカウンシルしずおか」も、川勝平太知事の意向が強く働いて動き始めた。地域に根付いた文化芸術活動の支援機関は国内でも限られ、専門的な知見を備えたスタッフら11人で始動させた本県の事業は地方都市のさきがけといえる。関係者は「これだけの陣容は、東京都に次ぐもの」と胸を張る。
 県民の創造的な活動をはじめ、観光資源や豊かな食を生かした文化政策は、川勝氏自身の熱量が支持者の期待を膨らませる。特に「文化力の拠点」の整備を目指したJR東静岡駅南側の県有地は、老朽化が進んでいた県立中央図書館(同区)の移転を巡り、計画の行方に強い関心が注がれてきた。
 17年、一部機能の移転を想定した現在の図書館に大掛かりな補修が必要と分かると、全機能移転の方針が川勝氏の答弁で打ち出された。県産食材のレストランや大学コンソーシアムの拠点を併設するなど、県民の“自己実現の舞台”が熱心に語られた。
 急展開する議論の一方、オフィスやホテルなど民間から募った提案は折り合いがつかなかった。「論点がぼやけているので白紙に」。20年1月、川勝氏自身が図書館以外の構想を引っ込める事態になった。「必要性や効果の説明がなかった」と県庁内でも反省が漏れた。
 前知事石川嘉延氏の時代に誕生したSPACは四半世紀の実績を積み上げ、川勝氏肝いりの事業も背負う。中高生の招待公演で演劇の魅力を継続的に伝えながらも、鑑賞経験のある県民は7%(演劇文化に関する県民意識調査)にとどまり、公費で劇団を持つ意味も改めて問われている。別の劇団関係者は「演劇や音楽への受け止め方は温度差があって当然。少人数に向けている特性を見ても、公共が担うことには違和感がある」と疑問を投げた。
 (知事選取材班)

 <メモ>「アーツカウンシルしずおか」は、文化芸術による地域振興を図るプログラムに上限500万円を支援する。初年度は郷土芸能や障害者アート、まちづくりイベントなどに取り組む23団体を対象にすることが決まった。活動を担う人材育成やネットワークづくりにもつなげる。

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