投棄された化学物質 富士川、生き物減り「死の川に」【サクラエビ異変 母なる富士川 堆積汚泥の正体㊤】

 「乱舞する群れそれは今、富士川に。」―。富士川と鮎を愛する会が主催、旧富士川町(現富士市)が後援し、2000年7月に開かれた第10回富士川鮎釣り大会のポスター。「『尺アユ(体長30センチ以上のアユ)』の川」と呼ばれた日本三大急流・富士川の往時が伝わってくる。

「ほんの十数年前までこれぐらいの大きさの尺アユが富士川下流にもたくさんいたのに、いまは生き物そのものがいない」とジェスチャーを交えて訴える望月正彦さん=5月中旬、富士市中之郷の自宅
「ほんの十数年前までこれぐらいの大きさの尺アユが富士川下流にもたくさんいたのに、いまは生き物そのものがいない」とジェスチャーを交えて訴える望月正彦さん=5月中旬、富士市中之郷の自宅

 「『鼻曲がり』という特徴的なアユが、黒光りするほどいた。芋を洗うようだった」と懐かしむのは初代会長の望月正彦さん(86)=同市中之郷=だ。
 大会は旧町のリストラに遭い、10回大会が最後に。ただ、その後も県内外から太公望は絶えなかった。異変が起きたのは08年ごろ。濁りがとれず、餌のコケが生える玉石の表面には黄色の汚れが目立つようになった。アユをはじめとする生き物が極端に減った。
 「富士川は死の川そのものです」。望月さんは残念そうだ。
 日本軽金属が出資する採石業者ニッケイ工業による高分子凝集剤入りポリマー汚泥の不法投棄が明らかになったのは19年5月。専門家は凝集剤に含まれる化学物質のアクリルアミドポリマー(AAP)は「100年残る」と警鐘を鳴らす。
 不法投棄は「少なくとも11年夏以降」(地元住民)。500万立方メートルに上る汚水を発生、相当量をポリマー汚泥として富士川水系雨畑川に投棄してきたことが関係者への取材で明らかになっている。
 しかし、静岡新聞社取材班の山梨県への情報開示請求では、同社が1980年代から近隣の山中で不法投棄を繰り返していたことが判明。「いつから雨畑川に凝集剤入り汚泥が流出したのか」について県は把握していない。
 天然アユが遡上(そじょう)するはずのことし4月、静岡県内水面漁協連合会が富士川下流2カ所と興津川で実施した調査でも、関係者は「富士川の遡上は依然少なく生物種も限られた」と明かした。
 同じ4月中旬の衆院環境委員会。源馬謙太郎氏(立憲民主党、比例東海)は、山梨県南部町の富士川中流に存在する、粘着性がある黒色のポリマー汚泥の実物を示しながら小泉進次郎環境相に「不法投棄されたものがまだ残っている。本当に川の環境が守れるのか」と詰め寄った。
 「地元から相談があった場合に、環境省として適切に対処する」と応じた小泉氏。流域から「第三者的な答弁で逃げている」との不満が漏れた一方、地元行政の背中を押すとして期待も広がった。
 批判が強いのは国交省水管理・国土保全局幹部の答弁だ。「魚が激減しているのでは」と問われたのにもかかわらず、5年に1度の調査を引き合いに「種は減っていない」と答えた。「『ご飯論法』で悪意すら感じる」とある専門家は怒る。
 源馬氏が質疑で示した泥は、本社取材班がAAP検出実験で使ったのと同時期、同じ場所で採取したものだ。富士川水系には底なし沼のような場所や、軽く足を乗せると反発してくる“不思議な”泥だまりが至るところに残る。
     ◇
 記録的な駿河湾産サクラエビの不漁をきっかけに関心が集まっている富士川の河川環境。不法投棄され、堆積した汚泥から有害成分に変質する化学物質が確認された。いま、「母なる川」で何が起きているのかを追った。
(「サクラエビ異変」取材班)

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