大自在(4月9日) 価値更新

 朝晩の寒さに身をすくめる日もあるが、葉桜の下に目をやれば真新しいランドセルが列をなしている。春まっただ中を実感する。
 「世を上げて春の景色を語るとき/暗き自部屋の机上にて/暗くなるまで過ごし行き/ただ漫然と思いいく春もある」。ロック歌手宮本浩次さんは1989年、自らのバンド「エレファントカシマシ」の楽曲「『序曲』夢のちまた」で、無為のまま通り過ぎる春を歌い上げた。
 今年3月、芸術選奨文部科学大臣賞を受けた宮本さん。デビュー後しばらくは、浮世をはかなむ歌が多かった。国から華々しく顕彰される日が来るとは。春は価値更新の季節である。
 気象庁は今春、更新の「更新」に踏み切った。動物の初鳴きや植物の開花を報告する「生物季節観測」。1月から、これまで動植物57種としていた対象を、サクラやウメなど植物6種に絞った。だが3月30日、一度除外した観測種を発展的に活用する新たな方針を明らかにした。
 「トノサマガエルの初見」「タンポポの開花」といった季節を象徴する事象の情報を、全国から集めて発信する。「生物季節観測には、生物を通じて四季を感じる文化的な価値がある」という意見が多く届いたからという。気象庁が約70年続けた観測は、私たちの手で更新することになる。
 宮本さんは3月末、新曲を発表した。自室で春をやり過ごしてから32年。前向き過ぎるとも思える歌詞は、当時と別人のようだ。「俺は今日も夢追いかける/空を行くあの鳥のように」(shining)。人も物も生まれ変わる。特に春は。

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