テーマ : 大井川とリニア

水量の大切さ理解して 森林組合おおいがわ組合長・杉山嘉英さん【大井川とリニア 私の視点】

 大井川中流域で林業を営み、自然と水の大切さを熟知する森林組合おおいがわ組合長の杉山嘉英さん(66)。2005年に旧中川根町長、合併後の川根本町長として、大井川水系から富士川水系に水が流れる東京電力田代ダムの水利権更新で交渉に携わった経験から、大井川の歴史と水の重みをJR東海に理解してほしいと語る。

杉山嘉英さん
杉山嘉英さん

 ―林業家にとって大井川の存在とは。
 「森と海は一体で、両者をつなぐ大井川の水量は非常に大事だ。森の恵みの栄養素が駿河湾に届くように、河川に近い所での森づくりは丁寧に慎重に扱っている。経済性重視で杉やひのきを植えていた林業も、今は広葉樹を含めた自然の多様性を重視している。川に水が流れても意味がないというのは20世紀の論理。水が流れるだけでいろいろな機能を果たしている。1997年の河川法改正では、利水や治水に環境という要素が加わった。本来の大井川を考えると環境面でも、もっと水がほしい」
 ―リニア問題をどう捉えているか。
 「田代ダム水利権更新時に小数点以下のトン数まで協議しながら大井川に水を取り戻した。ところが、リニア問題ではJRからいきなり毎秒2トン減ると聞かされて驚いた。実際には1トンか3トンか分からないが、大きな影響が出る。JRは数字ありきでなく先に調査すべきだった。水量の大切さをどれだけ理解しているのだろうか」
 ―水利権更新の交渉はどうだったか。
 「上、中、下流で立場の違いはあるが、水力発電の事業者や下流の利水者も水の大切さをよく分かっていて、連携して対応してくれたため中流の水量も増えた。水利権には歴史的背景があり、知恵を出し合い、譲り合いながら課題を解決した結果、今の水利用や河川環境がある。昔の大井川に戻せという思いだけでは地域のエゴ。水利権があっても余力があれば、環境維持のために川に流してほしいのが中流域の思いだ」
 ―田代ダムの取水量調整が解決策という見方もあるが。
 「田代ダムの水が大井川に戻るなら歓迎するが、JRと東電の問題。リニア工事の影響がなくなることにならないだろう。JRも国土交通省鉄道局も流域の思いを知らずに東京で考えていては駄目だ。科学的データと対話を通じて信頼を積み重ねていくしかない」 
(随時掲載します)

 ■水資源と自然は不可分
 取材後記
 大井川の水量減少問題を巡る国土交通省の専門家会議は「中下流域の水資源」と「上流域の自然環境」を区別して議論しているが、林業家の杉山嘉英さんの話を聞いて、そうした切り分けができない問題だと分かった。
 各水力発電所をつなぐ導水管ができて発電効率が高まった代わりに流量は激減し、川の生態系は大きく変化した。JR東海はリニア工事で地下水位が300メートル以上低下すると予測。生態系の変化は不可避だろう。
 工事で減水しても余っている水があるかのような主張もあるが、余った水があれば環境を良くするために川に戻してほしいという中流域の思いは無視しないでほしい。国交省とJRは水資源と自然の関係をどこまで理解しているのだろうか。

 すぎやま・よしひで 大学卒業後、家業の林業に従事。中川根町長には中川根町議を経て2002年に就任。川根本町長も1期4年務めた。元大井川の清流を守る研究協議会長。川根本町在住。

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