中下流域の地下水 表流水維持で「影響小」【大井川とリニア第6章 検証・国交省専門家会議㊥】

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に関する国土交通省専門家会議での第二の論点「トンネルによる大井川中下流域の地下水の影響」は、流域の60万人以上の住民や企業にとって大きな懸念材料だ。委員は地下水などの化学的成分分析、地下水位データなどを元に議論を重ね、JR東海は「水環境の概念図」を作成した。福岡捷二座長(中央大教授)は「中下流域の河川流量が維持されれば、中下流域の地下水量への影響は極めて小さいと考えられる」との見解を示している。

JR東海が作成した水循環の概念図(一部加工)
JR東海が作成した水循環の概念図(一部加工)

 専門家会議が、こうした見解を固めた論拠は三つのポイントに分けることができる。
 一つはトンネル掘削による地下水位の低下は南下するにつれ収束するとの考え方で、JRは、導水路トンネル出口付近の椹島ではトンネル近傍に比べ極めて小さいとみる。昨年7月の第4回会合で示した水収支解析では、地下水位は最大300メートル以上低下するが、工事完了から15年後には下げ止まるとした。
 第5回会合で、委員は静岡市が南アルプスの自然環境保全のためにより広範囲で実施した解析の活用を提案した。JRは第6回会合で、静岡市の解析でも地下水位低下の南限は自社の解析結果と近い範囲に収まったと説明した。JRはこの両方の解析には不確実性があるとしている。
 二つ目のポイントは、上流と中下流の計20カ所の地下水や表流水の成分分析結果だ。河川表流水や地下水は、溶存イオンなどの分析によって、水の由来や地中に滞留した時間などを推定することができる。分析結果によると、中下流域の地下水は、主に表流水と中下流域に降った雨水で蓄えられているとの解釈が示された。JRは中下流域の地下水は主に標高200~900メートルで蓄えられた水だと説明している。
 三つ目は中下流域の地下水位の考察。第4回会合で、JRは中下流域の15カ所で県が実施している地下水位の10年分の測定結果を示し、渇水があった年も含め、地下水位は安定しているとした。
 第7回会合では、こうした分析結果や、上流の地下水が地表に出たり、地下に浸透したりしながら中下流域へ流れることを示した流域全体の水循環の概念図を踏まえて議論した。委員はJR作成の水循環の概念図について「利水者などに分かりやすく説明するため、さらに工夫を」と指示した。JRの成分分析は降雨が地下に染み込んだ地点の標高や地下水が同じ場所にとどまっている期間を調べ、標高は「平均」で示した。委員は第6回会合で、どの標高から水が染み込んだのか明確になっていないと指摘した。工事が地下水にどのような影響を与えるのか、具体的には分かっていない。
 水収支解析の不確実性を踏まえ、JRは中下流域の地下水位を継続的に観測する方針を示している。ただ、地下水位が低下した際の代替水源など対策の議論はこれからだ。
 中下流域の地下水に関するJRと専門家会議の見解について、難波喬司副知事は取材に「河川流量が維持されるとの前提条件付きだ。維持されなければ中下流域の地下水がダメージを受けると言っているのと同じ」と指摘した。改めて、トンネル工事に伴う湧水全量戻しの議論が重要になるとの考えを示している。
 (「大井川とリニア」取材班)

 水循環の概念図 河川表流水と地下水の流れ、蒸発散や降雨などを含む大井川流域の水循環の全体像について、JR東海が住民や利水者へ分かりやすく説明できるよう、専門家会議がJRに作成を指示した。鳥瞰(ちょうかん)図と、河川の流れに沿った縦断面図の2種類あり、それぞれ推定した水の動きや量を示している。

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