フジヤマハンターズビール(富士宮市)深沢道男さん 全ての原料を地元で 循環型ブルワリーへ【しずおかクラフトビール新世代⑨】

 地域の産物でビールをつくり、地域で消費する。2018年に開業したフジヤマハンターズビール(富士宮市)の醸造責任者深沢道男さん(48)の考えは、まさしく「循環型ブルワリー」と言うべきものだ。「原料の100%自給を達成するには、まだまだ超えなくてはいけないハードルがある。でも、少しずつ実現しているのも事実」と自負を示す。猟師、農業従事者を兼ねる、全国でも珍しい醸造家だ。

仕込んだビールの香りを確かめる深沢道男さん=富士宮市のフジヤマハンターズビール
仕込んだビールの香りを確かめる深沢道男さん=富士宮市のフジヤマハンターズビール
年貢(左) と鉞(右)
年貢(左) と鉞(右)
仕込んだビールの香りを確かめる深沢道男さん=富士宮市のフジヤマハンターズビール
年貢(左) と鉞(右)

  「教科書通りのビールばかりじゃつまらない。つくりたいのは、例えるなら農産品直売所に置かれたゴツゴツのコンニャク。形は整っていないが、原料の良さが全て引き出されている」
  芝川を見下ろす小さな醸造所の構想は約15年前にさかのぼる。肉や野菜を持ち寄っての猟師や農家の仲間との寄り合い。ここに自家製の酒があったらどんなにいいだろう-。すぐに行動に移した。
  ビールの原料、醸造方法を学びながら、10年にまず二毛作で大麦作りに乗り出した。祖父母から受け継いだ田畑を活用。13年からホップの栽培も始めた。「できるだけ自分の手で集められるもの、身近にあるものでビールをつくろう」という発想だった。
  15年には、クラフトビールメーカーのアオイブルーイング(静岡市葵区)や御殿場高原ビール(御殿場市)に大麦を販売するようになった。仕込み作業を手伝いながら、技術を身に付けた。18年の醸造所オープンは、10年以上の年月を費やした、一つの到達点だった。
  セゾン、ラガー、IPA-。かんきつ類や樹木など地域の副原料を効果的に活用したビールのレシピが次々にわき出す。3年未満で、世に送り出したビールは約100種。発泡酒免許でつくれることを確認した上で、サトウキビなどが原料の炭酸入りアルコール飲料「ハードセルツァー」にも挑戦した。
  今も農業、猟、醸造の三足のわらじを履く。空気中に漂う、ビール醸造に適した酵母を集め、常温で醸す方法を模索している。ビール以外の酒の醸造も構想する。「日本酒や焼酎に代わる、日本の農の事情に適合した新しいアルコール飲料があっていい。農地を有効活用して、地元の人が気軽に楽しめるものをつくりたい」
 (文化生活部・橋爪充)

 ■年貢と鉞(マサカリ)
  自社生産のコシヒカリを使ったIPAの「年貢」は、ブルワリーの顔的存在。華やかに漂うかんきつ系の香りと、どっしりした飲み口のコントラストが特徴だ。飲み込むと、舌の付け根付近から喉にかけて、心地よい苦みが持続する。
  ヒノキを副原料にしたラガーの第2弾「鉞(マサカリ)」は、全ての麦芽を自社生産でまかなう。口に入れた瞬間にすぐ分かるヒノキのふくよかな風味が特徴。ヨーグルトのようなフレーバーも感じられる。アタックは比較的軽く、後味はすっきりしている。

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