アオイビール(静岡市葵区)宮脇浩樹さん 鉄道マンから醸造士 「個の評価」求め転身【しずおかクラフトビール新世代⑥】

 県中部初のクラフトビール醸造所、アオイビール(静岡市葵区)の醸造士宮脇浩樹さん(25)=沼津市出身=は、かつてJR東海道線や御殿場線で車掌を務めていた。社内研修を経て「運転士」に進むレールが敷かれていたが、「醸造士」への道を選んだ。「好きなことをやっていく。生活するためのお金はどうにでもなる」

麦汁をつくった後に残った麦芽のかすをタンクからかきだす宮脇浩樹さん。市内の畑に運び、肥料として役立てる=21日、静岡市葵区のアオイビール
麦汁をつくった後に残った麦芽のかすをタンクからかきだす宮脇浩樹さん。市内の畑に運び、肥料として役立てる=21日、静岡市葵区のアオイビール
Paid Vacation IPA(左)とIce Breaker Golden Ale(右)
Paid Vacation IPA(左)とIce Breaker Golden Ale(右)
麦汁をつくった後に残った麦芽のかすをタンクからかきだす宮脇浩樹さん。市内の畑に運び、肥料として役立てる=21日、静岡市葵区のアオイビール
Paid Vacation IPA(左)とIce Breaker Golden Ale(右)

  従業員1万8千人超のJR東海を20代半ばで退職してビールを造る。約2年前にそう決めた。周囲は止めたが「何を言われてもぶれなかった。自分がつくったものへの評価を、顧客からダイレクトにもらう。そんな世界に身を投じたかった」。
  クラフトビールとの出合いが、胸の奥底に眠った感情を呼び覚ました。21歳の時に三島市内のビアバーで飲んだ米国のIPA。「衝撃的だった。香り、苦み、味。それまで飲んでいたビールと全然違う」。首都圏のビアフェスティバルやビアパブに通い、ありとあらゆるビールを試した。
  飲み続けるうちに、味や香りだけでは語りきれない、特有の魅力に気付いた。「コミュニティーの心地よさ。ビールが好きな者同士が、飲みながら同じ時間を共有する楽しさ。他のお酒以上に、心と心が通じ合う力がある」。ビールで自分なりの価値を創造したい。“飲む側”から“つくる側”への転身を志した。
  2019年6月にアオイビールの門をたたいた。当時の醸造担当者の退職が決まっていたため、作業を必死で覚えた。年末には1人で作業するようになった。壮大なチームプレーを基礎とする鉄道運行から、自分一人の力で全ての評価が決まるビール醸造へ。仕込みから瓶詰め、タンクの洗浄まで、作業は多岐にわたる。疲弊することも多い。「責任は重いが、少量で短期間につくれるのがビールの強み。仕込みを繰り返して知識や技術を蓄積している」。10月、ようやく醸造担当がもう1人入った。
  アオイビールは欧州スタイルを志向する。すっきりした味わいが特徴だ。ホップが利いた米国スタイルが流行する中で異質とも言えるが、意に介さない。「県民に親しんでもらえるビールを目指す。つくったビールが全て県内で消費されるようにしたい」
  文化生活部・橋爪充)

 ■Ice Breaker Golden AleとPaid Vacation IPA
  アオイビールの看板といえばゴールデンエール。JR静岡駅構内などにある直営店でも常に上位の人気を誇る。アルコール度数は5%程度で、軽い口当たりとのど越しの良さが特徴だ。ドイツ産のモルトとホップを使い、酵母の働きによるエステル香をホップの上品な香りがそっと包み込む。
  アルコール度数6.5%のIPAは、伝統的な英国スタイル。ホップはドイツ産、イギリス産、スロベニア産を組み合わせていて、紅茶や若草のような香りが漂う。口に含むとふくよかで少し香ばしいモルトの味わいが感じられ、少し遅れて苦みが訪れる。

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