【時評】伊豆東部火山群の避難計画 多様な事態の対応検討を(小山真人/静岡大名誉教授)

 伊豆東部火山群は、伊豆半島の東半分とその沖の海底に分布する火山群であり、気象庁の定める111活火山の一つでもある。1978年以降たびたびマグマ上昇とそれに伴う群発地震が発生し、89年7月13日には伊東市街の沖合で海底噴火が生じた。その後ようやく2015年になって住民避難計画が策定されたが、1次避難場所までの徒歩避難が原則とされ、夜間や悪天候時の実効性に課題があった。噴火のたびに新しい火口をつくる伊豆東部火山群では、既存火口の存在が前提となる噴火警戒レベル2と3を発表できず、レベル4に上がった時点で避難開始となる。このため避難準備の余裕がない点も問題であった。さらに18年に噴火の影響範囲が見直されて市街地の広い範囲を含むことになったため、避難計画の根本的な見直しが迫られていた。
 今年3月に公表された新たな避難計画の最大の特徴は、鉄道による避難に加えて、自家用車による避難も認めたことである。計画策定に先立って交通シミュレーションを行い、一定の渋滞は起きるものの影響範囲外への脱出に十分間に合うとの判断である。また、旧計画と同様に噴火警戒レベル4で要支援者の避難、レベル5で一般住民の避難を開始するものの、レベル1の段階でも気象庁が発表する「火山の状況に関する解説情報」などに従って、噴火への注意喚起、避難準備の呼びかけ、観光客に対する帰宅指示などを順次行うこととした。自家用車での避難経路と避難先は地区ごとに定められ、いったん県東部各地の「避難経由所」に集結・駐車した後、そこからバスなどで指定避難所へと分散する手はずも避難先自治体と調整済みである。
 今回の改定によって避難計画は綿密さと対応力を増したが、あくまで1989年噴火時と同様の事態推移を仮定している点に注意が必要である。前兆から噴火までの時間が早まった場合、気象庁から十分な情報発表がないまま噴火に至った場合、想定範囲の外で噴火が生じた場合、大地震や台風などとの複合災害が生じた場合、市役所が避難すべき範囲に入った場合などの具体的な対応は未定である。今後、そうした事態下での応急対応の検討、住民や観光客への周知、実動訓練を通じた計画の練り上げが必要である。   
 (静岡大名誉教授)

 こやま・まさと 静岡大防災総合センター客員教授。1959年、浜松市生まれ。東京大大学院博士課程修了、同大理学博士。富士山火山防災対策協議会委員、美しい伊豆創造センター・ジオパーク委員会顧問、伊豆東部火山群防災協議会委員などを務める。専門は地質学、火山学、歴史地震学、地震・火山防災など。

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