【時評】「異次元」の少子化対策 性別役割分業 見直しを(笹原恵/静岡大情報学部教授)

笹原恵氏
笹原恵氏

 厚生労働省が2月27日に発表した人口動態統計(速報値)によれば、2023年の出生数は過去最少の75万8631人だった。国立社会保障・人口問題研究所は出生数が76万人を下回るのは35年と推計していたので、12年も早くこのラインに「到達」したことになる。
 出生数と並んで少子化の指標とされるのが、15~49歳の女性が生涯に産む子どもの数を表す合計特殊出生率である。1949年に4.32、73年で2.14、そして2022年は1.26と減少している。戦後のベビーブームの時代には、女性は子どもを4人産んでいたが、現在は1人ないし2人ということになる。
 政府は「異次元の少子化対策」として、若者・子育て世代の所得向上を実現するとともに、子育て世代への経済的支援の充実や、ライフステージに応じた切れ目のない支援の継続などを打ち出し、児童手当の増額などがメディアでも大きく取り上げられている。確かにこれらの施策は、現在、子育て世代が抱える問題の解決にはつながるだろうが、これから子どもを持とうとする世代にアピールするなら、保育料の無償化や学童保育の充実、高等教育の無償化などより思い切った施策が必要だろう。
 また結婚しない人の増加や若者の恋愛離れが少子化につながっているとの指摘もある。国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、18~34歳の未婚者のうち8割が恋人や婚約者はいないと答えており、交際相手がいない未婚者のうち交際を望まない人は男女とも3割を超えている。
 そもそも結婚や子どもを持つ(産む)ことは個人の選択であり、介入の仕方によっては人権侵害や全体主義にもなりかねず、施策として展開するのは極めて難易度が高い。
 政府の「こども未来戦略 次元の異なる少子化対策の実現に向けて」は、経済的支援と並び社会全体の構造や意識を変える必要を挙げている。育児負担が女性に集中する「ワンオペ」を変え、夫婦が協力しながら子育てできる環境を整えるために、長時間労働を是正し、育児休業を取りやすくするなど、「働き方」をめぐる社会全体の意識改革が必要とされているのである。
 このように、家族と職場を変えるには、ジェンダーの変革、すなわち性別役割分業の見直しが必要になる。こちらの方に「異次元」の努力を求めたい。
 (静岡大情報学部教授)

 ささはら・めぐみ 1963年、仙台市生まれ。専門は社会学、女性学。東京女子大文理学部社会学科卒、明治学院大大学院社会学研究科博士前期課程修了、東北大大学院教育学研究科博士後期課程中退。新潟大人文学部助手を経て95年10月、静岡大情報学部講師。2010年10月、同学部教授に就任、21年4月から同学部長。

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