社説(11月22日)映画助成巡る判決 表現の自由 守る議論を

 文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会(芸文振)」が俳優の薬物事件を理由に出演映画への助成金を取り消したのは違法だとして、製作会社が交付を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は「不交付は違法」とする判断を示した。不交付は「適法」とした二審判決を破棄し、原告の逆転勝訴が確定した。4人の裁判官が全員一致で下した結論で、芸術作品への公的助成金の在り方を巡る最高裁の初判断となった。
 判決は、今回のように「公益」が害されることを理由に広く交付が拒否されると、助成を必要とする者の表現行為に「萎縮的な影響が及ぶ可能性がある」と指摘。そうした事態は芸術家らの自主性や創造性を損なうもので、憲法が保障する表現の自由の趣旨に照らしても看過しがたいとした。判決は妥当で、公的機関の過剰な対応が表現の自由を害し、芸術活動を萎縮させることに警鐘を鳴らしたと言える。判決を踏まえ、芸術への公的支援の在り方や表現の自由をどう守るかを考えたい。
 問題の映画は2019年9月に公開された「宮本から君へ」。芸文振は製作会社の申請を受けて同年3月、1千万円の交付を内定して通知した。ところが同月、出演者の俳優ピエール瀧さん(静岡市出身)がコカイン使用の疑いで逮捕された。瀧さんの執行猶予付き判決が確定した直後の7月、芸文振は「公益性の観点から交付は適当ではない」として不交付を決定した。
 裁判は一審で製作会社側が勝訴したが、二審では逆に被告である芸文振の主張を認めた。薬物乱用防止という公益の観点から、不交付の決定は「重要な事実の基礎を欠いているとか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いているとはいえない」とした。
 上告審でも税金を原資にした助成が公益に照らして妥当かどうかが争われた。判決は、不交付にできるのは重要な公益が害される具体的な危険がある場合に限られるとし、瀧さんは助成で直接利益を受ける立場ではなく、交付したことで「国は薬物犯罪に寛容だ」とのメッセージを発したと誤解され薬物乱用者が増える根拠も見当たらないと断じた。
 過去には映画や展覧会への助成を巡る「政治的な介入」が問題になった例もある。また、映画やテレビドラマの出演者による不祥事があると、出演場面をカットしたり、代役による撮り直しをしたりするケースが目立つ。公開や放送の中止、過去の作品なら配信中止になることもある。こうした事例も、芸術性の評価や公開などの影響をきちんと検討せず一律に不交付としたり、自粛したりすることが妥当なのか、議論を深める必要があるだろう。

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