三島由紀夫と下田の関係は 芥川賞・平野啓一郎さん講演

 三島由紀夫の逗留(とうりゅう)地として知られた下田市の市民文化会館で21日、「文学シンポジウム」(市教委など主催)が開かれた。三島由紀夫に詳しい芥川賞作家の平野啓一郎さんが講演した。

講演する平野さん=下田市民文化会館
講演する平野さん=下田市民文化会館

 平野さんは「三島由紀夫論」の著作もあり、講演では三島と当地の関係性をひもといた。歴史的背景も踏まえて三島の思想や遍歴を紹介し、下田を訪れ始めた時期について「(著作の)売り上げも落ち、自信喪失していた」と解説。その不振期から政治思想に傾倒する晩年が下田と関係性が深かったと説いた。
 市教委によると、三島は1964年に市内のホテルに滞在以来、逝去する70年まで毎年8月に下田で過ごしたという。ただ「数年にわたり1カ月ほど滞在していたのは長すぎる。何が彼を(下田に)引きつけたのか」と平野さんは指摘。下田を代表する「海」を三島が表現する際、性的であり残酷であり時に憧れの象徴だったとし、作品ごとに表現方法が大きく異なると分析した。死を考えていた時期とも重なるとし、「家族や自身の死とのはざまで複雑な心境だったはず」と推察した。その上で「住民との日常的な交流が心の慰めになっていたのでは」とおもんばかった。
 生前の三島と交流のあった市内の人物や場所を記録に残すべきと強調し、「世界的にも重要な資料になり得る」とも訴えた。
 (下田支局・伊藤龍太)

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