社説(11月21日)ガザ地上戦 病院への攻撃許されぬ
パレスチナ自治区ガザ北部に侵攻したイスラエル軍が地区最大規模のシファ病院に突入した。病院の地下に大規模なトンネル構造があり、イスラム組織ハマスの作戦本部になっているというのがイスラエル側の主張だ。
多数の非戦闘員がいる市街地での戦闘も避けるべきなのに、病人や負傷者だけでなく避難住民も身を寄せている病院を戦場にすることは、人道上も国際法上もあってはならない。イスラエル軍は掃討作戦を即時停止して撤収すべきだ。これ以上の人道危機を防ぐために国際社会は連携して圧力をかける必要がある。
18日にシファ病院を訪れた世界保健機関(WHO)などの国連要員は、「デス・ゾーン(死の区域)」と表現、状況は「絶望的」と報告した。この時点で病院には医療従事者25人と赤ちゃんや患者など291人が残り、避難住民ら2500人は退去していた。病院玄関には80人以上が埋葬された墓地もあったという。
病院を占拠したイスラエル軍はハマスに拉致された人質の行方も含めて捜索を続けているとみられる。武器などのほかにトンネルを見つけたと発表したが、事前に主張していたような地下作戦本部を裏付ける証拠は示していない。示せなければ、自衛の範囲を大きく超えている侵攻作戦の根拠が失われる。
イスラエル軍はガザ北部での作戦領域を密集地のジャバリヤ難民キャンプに広げたとし、避難住民がいる学校も攻撃した。イスラエル軍は住民の退避先に指定しているガザ南部への空爆も続けている。北部侵攻で狙った成果が出ない場合、南部侵攻も図ることが懸念される。一方でハマスなどの抵抗もあり、市街戦でイスラエル軍側の損害も拡大している。
数十人の人質解放と引き換えに5日間、戦闘を休止する交渉が進んでいるという報道もあるが、イスラエルのネタニヤフ首相は合意はないとして、ハマス壊滅と人質解放、ガザの脅威除去を進めると強調している。しかし、住民の間に潜むハマスを根絶することは不可能だろう。このまま出口の見えない戦いをいつまで続けるつもりなのか。
国連では人道目的での休戦などを求める10月下旬の総会決議に続き、機能不全を指摘されてきた安全保障理事会も15日、子どもを保護するための人道的な戦闘休止を求める決議を採択した。イスラエル支援の米国も容認し、採決では拒否権を使わず棄権した。
法的拘束力を持つ安保理決議は重い。子どもたちの命を救い、これ以上の流血はやめよとする国際世論をイスラエルは尊重すべきだ。安保理はその権限を生かし、積極的に働きかけてもらいたい。