大自在(11月12日)国立印刷局静岡工場80周年
第2次世界大戦のさなか、ナチス・ドイツは敵である英国の経済を混乱させようとポンド紙幣の偽造作戦を実行した。指揮官の名から「ベルンハルト作戦」と呼ばれる。
首都ベルリン近郊の強制収容所に秘密工場を造り、ドイツ各地から集めた製紙や印刷のユダヤ人技術者を製造に従事させた。精巧な作りで武器調達やスパイ活動に使われ、偽札流通のうわさが広がるとポンドの価値は急落した。
2007年、偽造に携わった印刷工の証言に基づき製作された映画「ヒトラーの贋札[にせさつ]」が公開された。協力を拒めば命はないが、作戦の成功はナチスを利して同胞を苦しめることになる―。技術者の苦悩も描かれている。
先日、静岡市駿河区の国立印刷局静岡工場を見学する機会を得た。日本のお札、日銀券を印刷する国内工場の一つ。今年6月に創立80周年を迎えたが、認知度はいまひとつで、硬貨を製造する「造幣局」と間違われることもあるそうだ。来年7月に予定されている新紙幣の発行開始に向け、印刷が本格化している。
日銀券は世界で最も偽造されにくい紙幣の一つと言われる。新紙幣にも最新技術を含む高度な偽造防止策が盛り込まれている。説明してくれた工場関係者は「世界最高の技術」と胸を張った。
新しい1万円札の“顔”になる渋沢栄一は、官僚や実業家としての活躍が知られるが、晩年は第1次世界大戦後に成立した国際連盟の支援運動を展開するなど平和活動に力を入れた。各地で紛争が深刻化している今、その功績を見直すことにも意味があるのではないか。