SPAC「秋→春」シーズン 10月幕開け 「伊豆の踊子」演出 多田淳之介
静岡県舞台芸術センター(SPAC)の「秋→春のシーズン」は10月、川端康成の小説を原作とした「伊豆の踊子」で幕開けする。物語の舞台である伊豆地域の映像を取り入れ、観客がその地を訪れたくなるよう脚色した作品。演出を手がけた多田淳之介は「地元の方々が知っているようで知らない景色を盛り込んだ。地域の魅力の再発見につながれば」と期待する。
現地映像加え新鮮な印象 孤独から逃れるために伊豆へ一人旅に出た青年が、道中で出会った旅芸人一座の踊り子に淡い恋心を抱き、心がほぐされていく―。川端が伊豆を旅行した際の実体験が下敷きになっている。単行本や文庫本が複数社から出版され、美空ひばりや吉永小百合、山口百恵らが出演して映画化もされている。なじみ深い物語の舞台化を宮城聰芸術総監督から提案され、「ストーリーはシンプル。川端康成が若い時に書いた作品で、若さゆえに描ききっていない部分や曖昧さをどう表現するか考えた」と多田。他の川端作品を読み込んでエピソードを肉付けし、原作を知る知らないにかかわらず観客が新鮮さを味わえる演出を意識した。
実際に伊豆を訪ね「(小説が書かれた)当時とあまり景色は変わっていないのではないかと思った」として、青年と旅芸人らが歩いたであろう杉林などの風景を舞台背景に使用。「踊る大捜査線」シリーズなどで知られる本広克行が監修した臨場感あふれる映像が、観客を旅気分へいざなう。「新しいものに出合う、非日常を体験する、という観点で、観光と劇場に足を運んで鑑賞する演劇は親和性がある」と、今作を「観光演劇」と表現する。
劇団「東京デスロック」を主宰する多田が、SPAC作品に携わるのは2018年の「歯車」に続いて2作目。稽古に入る前、俳優それぞれの自己紹介に多くの時間を割いた。「SPACは出自も個性も多様な俳優が集まっている。それぞれの得意技が作中で光ると思う」
一般公演は▽静岡(静岡芸術劇場)10月7、29日、11月11、12、18、19日、いずれも午後2時▽下田(下田市民文化会館)12月15日午後6時半▽修善寺(修善寺総合会館)同23日午後1時半▽浜北(浜松市浜北文化センター)2024年2月10日午後1時半▽沼津(沼津市民文化センター)同25日午後1時半。小中高生を対象に鑑賞チケットをプレゼントする。希望者はSPACのウェブサイト<http://spac.or.jp/>から申し込む。
(教育文化部・鈴木明芽) 全3演目を新作で SPACが世界の名作を届ける10月からの演劇シリーズ「秋→春のシーズン」は、「伊豆の踊子」を含めた新作3演目を上演する。
12月は、裕福な質屋の一人娘お艶と奉公人の新助の駆け落ちを描いた谷崎潤一郎の小説「お艶殺し」が原作の「お艶の恋」を披露する。新鋭の石神夏希による演出で、情熱のままに突き進み転落するも、恋を諦めない若者の姿を現代に置き換えて描いた。
2024年1月からは、オペラ作品として知られる「ばらの騎士」。演出はSPAC芸術総監督の宮城聰と俳優寺内亜矢子がタッグを組んだ。明治時代の日本を舞台に、軽快な喜劇に仕立てた。23年9月から24年3月まで、稽古の見学やスタッフとの交流を通して創作過程までも味わう「『ばらの騎士』サロン」を実施する。参加を募集している。
いずれも問い合わせはSPACチケットセンター<電054(202)3399>へ。