観光バス 運転手不足深刻 コロナで離職から復職せず【迫る 24年問題】
観光バスの運転手不足が深刻化している。新型コロナウイルス禍で仕事が激減して転職した人材の多くが復職せず、社会経済活動の正常化に伴い回復基調の観光需要に対応しきれていない。秋の行楽シーズンに向け、各バス事業者が運転手を募集しても「応募はほとんどない」。来春には運転手の残業時間に上限が設けられる「2024年問題」が迫り、人材確保に苦慮している。

静岡市清水区の丸勇交通は、23人いたバス運転手がコロナ禍で12人まで減った。雇用調整助成金を活用して賃金維持に努めたものの、残業代の目減りや激減した仕事への不安は大きかった。トラック運転手に転職するケースもあった。武本弘之社長(59)によると、求人への応募はなく、従業員の紹介で2人を採用するのが精いっぱいという。
自社で受けきれない仕事は「断るか、同業他社にバスを出してもらって対応している」。清水港へのクルーズ船寄港数はコロナ禍前の水準まで回復し、今後は富士山静岡空港で国際便の本格再開も見込まれる。国内観光需要への対応見通しも立たない中で、「とてもインバウンド(訪日客)まで手が回らない。24年問題が現実になれば、なおさら厳しい」と苦悩する。
冠婚葬祭や小中学校の修学旅行、イベント関連などのバスを運行するイハラ観光(同区)は、今年の稼働率がコロナ前から2、3割上昇。9~11月の繁忙期を前に、既に断らざるを得ないほど仕事が増えているという。杉山雅彦社長(49)は「運転手の数に限りがあり、今年は繁忙期でもこれ以上対応できない」と語る。
そんな中、来春の24年問題を見越して残業時間の抑制シミュレーションも始めている。現在の運転手は正規社員12人、非正規社員8人。1日を前後半に分け、業務の量と内容に応じた数の運転手を割り振る。週休2日で、1カ月の残業を平均40~50時間とし、有給休暇も可能な限り取得できる環境を整えたい考えだ。
人員確保の一環で年内に就業規則を改め、定年を60歳から65歳に延ばす予定。ただ、現在のペースで増える仕事を受けていくには、残業の上限規制が始まる来春から正規、非正規の運転手をそれぞれ5人ずつ補充する必要があるという。杉山社長は「24年問題の影響はかなりある、どころではない。今からしっかり準備しないと大変なことになる」と危機感を募らせる。
(経済部・金野真仁)