保育士の勤務実績 短く書き換え【届かぬ声 子どもの現場は今⑭/第3章 言えない環境 県東部の小規模保育所㊤】
静岡県東部の小規模認可保育所の職員が昨年、運営法人の代表を兼ねる当時の園長から高圧的な行為や言動を受けたとして、地元自治体と労働基準監督署に通報していたことが26日までに分かった。関係者によると、園長は有給休暇の取得などを巡って声を荒らげたり、説明なく保育士らのタイムカードの勤務実績を短く書き換えたりもしていたとされる。通報を受けて自治体などが指導し、園長は運営法人が同じ別の施設に移ったが、同保育所では過去2年間で少なくとも10人の職員が退職したという。元園長は静岡新聞社の取材に対し、「(職員が意見を)話せる雰囲気をつくれなかったのは反省している」と述べた。 ◇ これでいいのかな―。元職員は同保育所で働き始めた当初から、勤務表を見て疑問を抱いていた。

保育士として新たな職場を求めていた中、地元に小規模保育所が開園すると聞き、パートタイマーとして働こうと面接に行った。園長は基本給や手当の好条件を提示し、働きたい時間帯も承諾してくれた。ところが、作成された勤務表は契約した勤務時間より2~3時間も短いシフトが組まれていた。他の職員も同様だった。
新入園児は新しい環境に慣れる目的で、預かり時間を1~2時間程度から徐々に延ばしていく「慣らし保育」を行う。在園児もいないため、慣らし保育の間は必然的に全ての子どもが早めに帰宅する。元職員は「新規施設のスタッフはそうなのかもしれない」と思うようにしていたが、慣らし保育が終わっても契約通りに働けない日が度々あった。
自分たちにも生活がある。園長に尋ねると、経営難や新型コロナウイルス禍を理由に協力するよう求められた。「正規がいればいい。パートは子どもが帰ったら帰って」。そんな言葉も聞かれるようになった。園児の降園と同時にタイムカードに打刻することも強く求められた。おもちゃなどの片付けや消毒作業は打刻後にしていた。
開園から2カ月がたった頃、自分のタイムカードに見覚えのない手直しを見つけた。退出時刻に2本線が引かれ、実際より十数分早く退勤したことになっていた。賃金は15分単位で上がる仕組みだった。別の元職員は、有給休暇を算出する上で基準になる勤務日数が実際より少なく入力されていた。
「こういうことをする人なのかな…」。不信感が生まれた。たとえ今はパートであっても、資格を持つプロとして誇りを持って仕事を続けてきた。一連の出来事は子どもとじかに触れ合う現場の保育士が尊重されず、経営側の都合が優先されているように感じた。
面接の時は優しそうに見えた園長が、感情的になる場面も次第に目立つようになっていった。
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静岡新聞社が3~4月に県内の保育士や幼稚園教諭らに行ったアンケートでは、多くの保育者が労働条件や待遇に不安や疑問を抱えていることが浮き彫りになった。現場の「声」はなぜ改善につながらないのか。抑圧された環境に悩み、苦しんできた保育者たちが思いを明かした。(「届かぬ声」取材班)
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