いこく【異国】 作品との旅 格別な宝 阿部一徳【SPAC俳優 言葉をひらいて②】

 まずは僕の話をしよう。名画座に足繁く通う映画少年だった中学校時代、最後の夏休み、自分の一生を絵本にしなさいという宿題が出され、映画俳優になってアメリカで活躍する「スター誕生」なる絵本を作った。40年以上前の話である。俳優は俳優でも、舞台の世界へ、そしてなんと、20カ国近く、40近い異国の都市で仕事をすることになるとは夢にも思っていなかった。

SPAK俳優 言葉をひらいて2 いこく 異国
SPAK俳優 言葉をひらいて2 いこく 異国
阿部一徳
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阿部一徳

 国によって観客の反応は実にさまざまで、俳優としては本当に有り難く貴重な経験をさせていただいた。「王女メデイア」や「マハーバーラタ」という作品もかなり多くの国で公演したのだが、印象に残るツアーが多かったのは、「天守物語」である。初演が1996年なので、実に四半世紀以上も公演していることになる。泉鏡花が描く妖怪と人間の恋物語だが、もはや初演からの出演者も妖怪に近づきつつあるのである。
 97年にはインドのケララ州~パキスタンのラワルピンディー。これは刺激的な経験だったなあ。アジアの芸能の源泉を訪ねるみたいなね、生演奏と歌と踊り。この頃はまだスマホも無く、側面が青くて分厚い本片手にトラベラーズチェックとか使っていた時代なので、今行けば印象はずいぶん違うのかもしれないけど、あの不便さがちょっぴり懐かしくもある。
 99年には中国の瀋陽~昆明、そして富士山より標高が高いチベット自治区ラサのノルブリンカ宮~ツェタンの人民影劇院前広場。チベットの公演はどちらも昼の屋外、空気が薄いから舞台から引っ込むと酸素ボンベ吸ったりしつつ。他にもエジプト、韓国、フランス、台湾、中国の砂漠の町敦煌、9・11後のアメリカ3都市ツアー。思い出は尽きない。
 異国を一緒に旅してきた作品というのは格別な宝物である。

 あべ・かずのり 東京都葛飾区生まれ。1990年、宮城聰(現SPAC芸術総監督)の呼びかけによりク・ナウカの旗揚げに参加。2009年よりSPACで活動。肉体を駆使した発声術・台詞術は、海外でも高い評価を得ている。5月、SPAC「天守物語」に出演予定。

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