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育休中のリスキリング どう考える?⑤ しずしんニュースキュレーター/読者の意見【賛否万論】

 「次元の異なる少子化対策」を掲げる政府は、女性に比べて取得率の低い男性の育児休業取得を促していて、育休取得者は今後増加が見込まれます。その人たちが育休の時間をどのように過ごすのかは、当事者だけでなく、同じ職場で働く人たちや社会全体にとっても重要なテーマです。育休中のリスキリング(学び直し)はどうあるべきでしょうか。そもそも、育休中に学び直しは可能なのでしょうか。キュレーターや読者の考えを紹介します。

キュレーター 杉山有希子さん(掛川市)イベント会社「ママバトン」代表取締役。4月15日に掛川市つま恋で開催される音楽フェスの運営スタッフ。2男1女の母。子どもの小学校PTAでは運営委員の経験が4度ある

 私は今でこそ仕事を持っていますが、第1子の出産から第3子出産までの7年間は、いわゆる「専業主婦」でした。それぞれ2歳違いの3人きょうだいを家庭で育てる日々は目が回る忙しさで、今思い出しても記憶がおぼろげです。
 ですが、言えることは子育ての日々の中では机に向かい「勉強する」ことだけが学びではなく、子どもの一挙手一投足から学べることがたくさんあり、かけがえのない日々だったと、過ぎ去った今だからこそ強く思うのです。
 子どもに問い、子どもの答えから学ぶ。子どもを通したママ友達や幼稚園の先生との人間関係。子どもの健康を願い調べ続ける食事や肌のこと、アレルギーや添加物のこと。それら全てが「学ぼう」として学ぶことではなく、私たちが子育てを通して自然と学べること。
 だからママたちには、焦らず、人と比べず、家庭や子育てに専念できる日々には存分に子育てしてほしいな、と私は思うのです。それがきっと、いつか動き出す時のための助走に必ずなるから。これは、人と比べ、焦っていた私からのメッセージです。
 育休は、いつかのスタートダッシュのための日々。今、子育てに一生懸命なあなたの毎日こそが、十分な学びなのです。

 

キュレーター 江口裕司さん(三島市)製造メーカーで米国勤務後、設計、製造、調達、翻訳、ISO、社内教育など多様な業務に携わり定年退職。現在、パートの傍ら大学再入学を目指し勉強中。64歳

 横文字過敏症の私は「リスキリング」というカタカナ言葉に危うさを感じます。英英辞典によるとReskillingは「to tea‐ch people new work skills,especi‐ally people who are unemployed」とあります(ロングマンビジネス辞典)。失業者への再職業訓練ってことですよね。
 「育休中の学び直し」ならわかります。本をひらく時間なら何とかなりそうですから。でも「育休中のリスキリング」となると理解しがたい。
 子育て中は動物に戻る…。ある女性作家の言葉です。思考と知覚に動物的な勘をフル稼働させる状況で職業訓練など無理ですね。ただ「育休制度を利用したリスキリング」と読み替えるなら理解はできる。育児をしない長期休暇を取れるなら技能習得にはもってこいでしょう。
 しかし制度の悪用は本末転倒。リスキリングを育休と連動させた岸田首相の答弁は誤解を招いて当然です。だから「リスキリング」に「学び直し」との訳を与えることにも誤解を招く危うさを感じるのです。
 学者の言葉を借りるなら「学び直し」は幸福度を持続的に補完する営み。よりよく生きるための選択肢を増やし自由になることが強調されます。それは自分のためであり、経済や産業のための訓練とは異次元のこと。
 政府の目的は、デジタルトランスフォーメーション(DX)化に向けた就業支援で成長産業への労働移動を図ることと思われます。うがった見方をするなら、産業を支援するためのリスキリングという「訓練」を国民の幸福を支援するための「学び直し」と印象付けたい政府の意図を感じます。
 有意義なDX関連の仕事に就くには訓練が、有意義な仕事に転換させるには学びが必要、と現代風に読み替え可能だと思います。学びは幸福のためなのですから。
 「リスキリング」というカタカナ言葉を使う真意とは。それが政策的な訓練なら、政府の意図から自由になるためにこそ学び直しを続けたいと思います。
 ついでながら最後に一言。育児とは、子どもという先生に教わる学び直しの連続に他なりません。それは単なる座学でなく、知力と体力を総動員する人生最大の体験学習といって過言ではありません。

 

キュレーター 高木有加さん(長泉町)1男1女の母。一般社団法人ママとね理事。レンタルスペース「ママとこどものヒミツキチmorisbase」の管理人。ミッションは「孤独な子育て、ダメ、ぜったい。」

 「幸せになると決めたとき、必ず払う代償がある」。友人の言葉が妙に刺さったのは、ちょうどこの文章を書いていたからだろう。
 リスキリング発言について、賛否両論が噴出しているが、私は、そもそも最初から二つの見方があって、賛も否も、両者ともが正しいのではないかと思っている。
 13年前。初めての出産の後で育休に入った私は、帝王切開の傷も癒えないまま自宅に戻り、それから初めての子育てが始まりました。
 おしゃべりもできない、自力で移動もできない、快と不快だけのその「未知の生き物」のお世話。産む前には想像もしなかった感情の動き。まるで研究に没頭するかのように、おっぱいと睡眠とうんちとおしっこの時間と様子の記録を取り、一方通行に語りかける日々。
 ひと月ほどして「この子は2時間半ほどで次のおっぱいの時間になり、おっぱいのだいたい15分後にはおしっこが出る」ことがわかるようになった頃、ようやく少し、周りが見渡せるようになりました。
 仕事からも、通勤からも、同僚とのおしゃべりからも離れて、一人だけ卵の殻の中にいるような状況が、パチンとはじけて割れたとき、私は地域に出ました。
 地域に出ると、同じように、小さな子をおんぶしたり手を引いたりしているママがイベント企画をしたり、おしゃべりしたり、勉強したりしていました。
 私はそこで、頼れる同志という友を得て、この孤独感や閉塞[へいそく]感が自分だけではないのだと、ものすごく気持ちがラクになったことを覚えています。
 しかし、ただでさえ忙しいこの時期に、なぜ大事な時間を割いてこうした活動をするのか。先日、チコちゃんの番組で放送されていました。はるか昔から、人は「群れ」で助け合いながら子育てをしてきた動物なんだとか。
 孤独な子育てを強いられやすい現在の環境。私たちに刻み込まれた“命を繋[つな]ぐための危機センサー”が、「集え‼」「外に向かえ‼」とシグナルを発信してそうさせるのかもしれない。
 孤独な子育てをしちゃいけない、なんとか後に続くママが孤独にならないように、と現在子育て真っ最中のママたちが、何かに駆られるように動かずにいられないのはそういう理由なのかもしれません。資格取得もそうしたセンサーの延長線上にあるのかもしれません。
 産後の簡単に孤独になりやすいこの時期だからこそ動き出したり、集まったりすることも事実で、大変さ不安さ孤独さゆえの社会への怒りのような、これまで声にならなかった声があることも事実。
 私は今回の首相のリスキリング発言をきっかけにして、その二つの事実にぜひ気づいてほしいと思っています。
 幸せになると決めたとき、必ず払う代償。決めたのは自分。それでも、守るのは地域全体、社会全体でありたいと思うのです。なぜなら子どもは、地球全体の宝なのですから。


読者 澄んだ青空さん(焼津市)72歳

 職業能力の再開発のために学ぶには、「育休中の期間だけ学ぶ」という観点からでなく、育休の前後を含めて目標を持ち、どう学んでいくかを描いて学ぶことが必要ではないか。
 育休中に学ぶことが困難であるとすれば、目標に向かっていくために「困難な環境の育休の中でできること」を考え、量的にも質的にも無理のないように少しでも学び、育休後に重点的に学ぶことにすればと思う。
 このように取り組んでいけば困難な育休の環境の中でも学ぶことはできるし、育休後の学びの意欲や楽しみも出て結果もついてくると思う。頑張りましょう!

 次週の賛否万論は同じテーマでしずしんニュースキュレーターと読者の意見を紹介します。


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 育休中のリスキリングについて、あなたはどう考えますか。さまざまな立場からの投稿をお待ちしています。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422―8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。


 キュレーター

 「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。

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