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社説(3月20日)県立夜間中学開校 学ぶ機会の保障不断に

 静岡県は来月、初の夜間中学「ふじのくに中学校」を開校する。磐田本校、三島教室
合わせて10~70代の14人が入学予定という。
 戦後の混乱期に義務教育を受けられなかった高齢者はもとより、不登校の児童生徒、増え続ける外国人住民に基礎的な教育機会を保障する場として、文部科学省は夜間中学を重視。2021年2月から全都道府県と政令指定都市に設置を促した。
 ふじのくに中学も、この流れの中で生まれた。1期生の約8割が外国ルーツといい、この傾向は全国同様だ。
 ただ、文科省の22年調査で、夜間中学に通う生徒のうち、日本国籍の人が増えていることが分かった。不登校で十分に学べなかった日本人の学び直しの選択肢として認識されるようになったのなら、学びの機会の保障に不断に取り組むことが必要ということだ。
 そもそも、日本語の読み書きに不安を抱えながら暮らしている人はどれくらいいるのか。国立国語研究所が全国規模の識字調査を計画している。
 そのような調査は戦後間もない1948年に米国の教育使節団からの提案で、15~64歳の約1万7千人を対象に実施され、日本人の識字率は極めて高いとする報告書がまとめられて以来、行われていない。
 国内の識字率は長らく、ほぼ100%といわれてきたが、昨年5月に公表された2020年国勢調査では、最終学歴が小学校など「義務教育未修了」の人が90万人近くに達した。不登校や親の虐待によって十分な教育を受けられず、形式的に卒業しただけの人も一定数いるとみられている。
 さまざまな事情から学びに困難を抱えている人が相当数いることは否定しようがない。国は人材、資金の両面から夜間中学の設置をこれまで以上に後押しするなど学び直しの機会拡充を急ぐ必要がある。地方自治体も重要課題として取り組まなければならない。静岡県は、識字調査の結果を待つことなく中部地区への夜間中学設置の検討を始めてもらいたい。
 全国の国公私立小中学校で21年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は24万4940人。前年度より4万8千人余り増え、過去最多となった。
 十分に学べない「形式卒業者」が増える恐れもあり、文科省は夜間中学とともに、不登校の子どもに適した特別な教育課程を組める不登校特例校も全都道府県と政令指定都市に設置することを目指しているが、昨年12月時点では、まだ10都道府県計21校に過ぎない。
 多様性を尊重する社会に、学び直しの機会の拡充は欠かせない。

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