袴田さん再審、20日抗告期限 公開法廷で主張尽くせ 「大崎事件」元裁判官・根本渉弁護士【最後の砦 刑事司法と再審】
強盗殺人罪などで死刑判決が確定した袴田巌さん(87)=浜松市中区=の再審請求を認めた東京高裁決定は、20日に抗告期限を迎える。再審制度の不備や不当を訴える声が法曹界を中心に一層強まる中、袴田さんと同様に審理が長期化している鹿児島県の「大崎事件」の再審請求審を裁判官時代に担当した根本渉弁護士(65)=第一東京弁護士会=が18日までに取材に応じ、「現在の制度は請求当事者にとって納得しがたい形になっている。ルールの整備が必要だ」との認識を示した。
日本弁護士連合会は請求審での検察官による不服申し立て禁止や証拠開示の制度化の必要性を主張している。
根本氏は、検察官の不服申し立てが禁止されれば、「再審公判の場で検察官と弁護士が主張を尽くすようになる」と推測する。現状は非公開の請求審が主戦場で、過去に再審無罪が言い渡された事件では、検察が再審公判で有罪立証しないケースもあった。「裁判の公開の原則に照らせば、公開の法廷で争う方が適切だ」と強調する。
請求審での証拠開示は刑事訴訟法に具体的な規定がなく、担当裁判官の姿勢次第で格差が生じているとの批判がある。根本氏は「対応の差があまりに顕著になると、司法への信頼が失われる。憲法が保障する裁判を受ける権利の問題にもなってくる」と指摘する。
一方、裁判官の実務経験を踏まえ、「明らかに要件を満たさない請求も中にはある」と制度設計上の課題を挙げる。司法統計によると、2019~21年の間に地方裁判所には毎年、計150件前後の再審請求があった。「全ての請求に、法曹三者の協議を開いたり証拠開示を認めたりするのは現実的ではない」と指摘する。その上で「線引きは難しいが、請求内容によってふるいにかけた上でなら対応できるのでは」と私見を述べる。
担当した大崎事件の即時抗告審を振り返り、再審請求人の原口アヤ子さん(95)の体調などを踏まえ「再審を認めるか否かは別にして、ずるずる引き延ばしてはいけないと考えていた」と明かす。段取りがある程度決まっている通常の刑事事件と違い「請求審は裁判官が意識的に動かさないと止まってしまう」と特徴を挙げる。日々の事件処理の合間に請求審関連の資料を精査するため、「中身のある請求だと、目を通す資料も多く、労力のかかる仕事だと思う」と語った。
ねもと・わたる 福島県出身。1982年に判事補任官。福岡高裁部総括判事や熊本家裁所長、同高裁宮崎支部長を歴任した。同支部では2017~18年、鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第3次再審請求即時抗告審を担当した。一審の鹿児島地裁に続いて再審開始を認めたが、検察官が特別抗告した。最高裁は地裁、高裁の決定を取り消し、再審請求を棄却した。一審、二審の再審開始決定を最高裁が取り消した初めての事例とされる。