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大自在(3月12日)復興五輪

 民間調査会社マクロミルが2017年から毎年、河北新報社(仙台市)と共同で「東日本大震災に関する調査」を実施している。3月初めに今年の結果が公表された▼岩手、宮城、福島各県の沿岸部および東京電力福島第1原発事故で計画的避難区域に設定された自治体に住む被災者約300人の約28%が、震災前に比べて暮らし向きが「厳しくなった」と答えた。復興がまだ途上であることを示している▼22年以降の調査で、なくなった質問がある。東京五輪・パラリンピックについてだ。閉幕したからだろう。開催前の20年には、「『復興五輪』の理念は明確か」の質問があり、50%超が「明確ではない」と答えていた▼宮城県内の大学勤務時に被災した東京女子体育大の笹生心太准教授は、「『復興五輪』とはなんだったのか」(大修館書店)に「看板」と「エンジン」と記した。開催を勝ち取るため、復興を世界にアピールするのが「看板」。復興を加速させる起爆剤となるのが「エンジン」。被災者が期待したのはどちらか一目瞭然だ。だからこそ理念が最後まで明確にならなかったのだろう▼大会は1年延期され、理念は「新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証し」にすり替わった。閉幕後には汚職、談合など暗部ばかりが露呈。「復興五輪」は置き去りにされた▼〈大会が終了したからといってコンセプトまで忘却する必要はない〉と笹生准教授は期待する。大会とともに「復興五輪」も終わりではいけない。スポーツの力が、今後も被災地に役立ち続けることを願う。

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