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社説(3月11日)東日本大震災12年 若い語り部に耳傾けよ

 東日本大震災からきょうで12年。災害関連死も含め死者・行方不明者は2万2千人を超す。復興庁によると、2月1日現在の避難者数は静岡県29市町への369人を含めて全国で約3万1千人に上る。
 大震災の混乱を目の当たりにした子どもたちが成長し、当時は自分の口でうまく説明できなかった貴重な証言を、使命感を持って全国各地で語り始めている。次代に向けた防災のヒントを探るには、こうした若い語り部たちの声に耳を傾けることが大切だ。
 5日に浜松市防災学習センターが講演会に招いた菊池のどかさんは震災当時、岩手県釜石市立釜石東中の3年生。「釜石の奇跡」と言われた釜石市の小中学生の迅速な避難行動を振り返り、「1秒も無駄にしてはいけない」と呼びかけた。ネットの動画をいくら見てもこの肉声にはかなわないだろう。被災者の体験談を直接聞くことで、まるで自分も一緒に被災したかのような臨場感や緊迫感で災害の恐ろしさが迫ってくる。自治体だけでなく民間レベルも含めて大震災の語り部を静岡県にもっと積極的に招きたい。
 12年で防災を取り巻く環境は大きく変化した。デジタル変革が叫ばれ、多様性や地球環境への配慮がより重視される持続可能な開発目標(SDGs)の時代。捏造[ねつぞう]された情報も氾濫する。これからの防災には最先端を生きる若者の存在が一層重要になる。本県には東日本大震災の教訓を生かしつつ次世代の防災を提案する責任もあろう。多様な立場や考えを包括し利点を生かし合う概念が現代には不可欠だ。若い世代も主役に招き入れ、さまざまな概念を日常的に取り込んだ「包括防災」とでも言うような新しい防災の先進県を目指してはどうか。
 包括的な防災では避難所で尊厳を踏みにじられることはあってはならない。家族同然のペットと避難生活を送れるのは当たり前。誰にでも優しいユニバーサルデザインの街は減災にもつながろう。人手不足の現場が容易に破綻することは新型コロナ禍で証明された。社員や従業員が余裕を持って生き生き働ける職場こそ災害時にも強いことも浸透させるべきだ。事業継続計画(BCP)の一環でもある。
 「臨時情報」も12年前にはなかったものの一つだ。大震災の2日前、三陸沖でマグニチュード(M)7・3の地震が起きたが、後発地震に注意を促す制度がなかった。今は南海トラフ沿いで似た状況になった際、国が「臨時情報」を出し、注意や事前避難を促す。ただ、県が7日に公表した県民防災意識調査で「南海トラフ地震臨時情報」を「知っている」と答えた人は24・4%にとどまる。大震災2日前の地震で防災意識を高めていたら…と悔やむ声は多い。臨時情報の啓発にも語り部の証言は大きな力になろう。
 あれほど衝撃的だった東日本大震災も、人ごとと捉えている限り12年の年月が色あせた記憶にしかねない。県東部で震度6強を観測したり、計画停電の憂き目に遭ったりしたものの、東北ほど被害のなかった県民の多くにとって当時の衝撃はのど元を過ぎ、日常の防災の重要性が薄れていないか。政府は原発回帰にかじを切ろうともしている。語り始めた若い語り部や県内の若者の力を大いに借り、いま一度、防災や次代のエネルギー政策議論を盛り上げたい。
 一方で、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震と南海トラフ地震では、津波の到達時間や揺れそのものによる被害の大きさなど性質が異なる部分もかなり多い。しっかりと当事者意識を持ち、二つの地震の性質の違いや時代の違いなどを十分に踏まえながら、東日本大震災の教訓を現代や未来の防災に取り込んでいくことが肝要だろう。
 もちろん一丁目一番地は耐震補強や家具の固定、備蓄など地道な対策である。避難経路の点検や訓練の徹底も大前提として忘れてはならない。

いい茶0

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