「なぜ娘が」問い続け 低い安全意識、根底に何が【届かぬ声 子どもの現場は今⑦/第1章 河本千奈ちゃん⑤半年が流れて】
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスで亡くなった事件を受け、政府は対策に動いた。

全国の保育所などの送迎バスについて、バス後方に取り付けて座席の確認を促すブザーや、置き去りにされた子どもを検知するセンサーといった安全装置の設置を義務化した。費用も補助し、6月までの設置完了を目指している。
だが、まな娘を失った両親には響かない。父は言う。「あなたの子が犠牲になって世の中が良くなったと言われて、納得できる人はいるのでしょうか。千奈は行政を動かすために生まれてきたのではない」。安全装置については「必要だとは思うが、本来は運転手と乗務員のほんの少しの工夫と意識で防げること」と訴える。さらに語気を強めた。「安全管理がそもそもずさんな園に機械を与えたとして、本当に安全は保たれるのか」
事件当日、バスを運転していた当時の園長は車内を十分に確認せず、千奈ちゃんを閉じ込めた。「普段から愛情を持って子どもに接していたら園に着いた時点で『着いたよ』って声をかけて、子どもたちを降ろそうと体が動くんじゃないか」。母は半年が経過した今も、園長の行動を理解できない。
その園長は事件後の記者会見で「たまたま起きたミスか、起こるべくして起きたのか」と問われ、「両方だと思う」と答えている。怒りと悲しみをこらえながら園長を含む関係者と面会を重ね、なぜ娘が亡くなったのかを問いただしてきた父は「起こるべくして起きた」と断言する。
「送迎に関するマニュアルもなく、先生は子どもがいなくても確認の連絡をしなかった。安全意識の低さは、たまたまという言葉で片付けられない」
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千奈ちゃんには昨年6月に生まれた妹がいる。妹の誕生を心から喜んでいた。出産を終えた母が入院先から自宅に帰った時は、久々に会えた母に甘えることなく、真っ先に妹を抱っこした。いわゆる赤ちゃん返りもなく、毎朝起きては妹の様子を見に来て「かわいいね」と、柔らかな表情を浮かべていた。
リビングに飾られた遺影の千奈ちゃんは、妹に哺乳瓶でミルクをあげながらとびっきりの笑顔を向けている。自分がお姉さんであることがうれしくてたまらないかのように。
「千奈は3カ月間、しっかりとお姉さんをしてくれた」
両親は姉妹の成長を見たかった。
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