静岡の読書環境充実に尽力50年 「静岡子どもの本を読む会」 活動の歩み、記念誌に
子どもの本を学ぶ講座の開催や、地域の図書館づくりに取り組んできた「静岡子どもの本を読む会」が、50周年記念誌を発行した。公立図書館が少なかった半世紀前から、読書環境の充実に向け活動してきた足跡をまとめた。運営委員は「10人前後で世代交代をしながら、子どもたちに読書の喜びを伝えるバトンをつないできた。その歩みを知ってもらえたら」と期待する。

1960年代後半、自宅を開放して子どもに本を貸し出す家庭文庫が、静岡市内に続々とつくられた。同会はその連絡会として72年に発足。初年度から、市立図書館(現・市立中央図書館)と共催で「子どもの本を学ぶ講座」をスタートさせた。
絵本、児童文学、科学読み物、図書館などをテーマに第一線で活躍する作家や編集者を講師に迎え、新型コロナウイルスの感染拡大で中止した2020年度以外は毎年開催した。50年間で420回。講師陣には作家の中川李枝子さん、上橋菜穂子さんらそうそうたる顔触れが並び、市内外から受講生が集まった。
中でも、第1回からほぼ毎年、講師を務めてきた翻訳者で児童文学者の清水真砂子さん(81)=掛川市=の存在が大きいという。小泉亮子代表(81)=静岡市葵区=は「清水さんが高校教員の頃から私たちと共に歩んでくださった。講演から毎回刺激を受け、視野を広げてもらった」と振り返る。
講座の受講生から運営側に転身した委員も多い。南部図書館で講師を務めたり、本や読書に関わる新たな地域団体を設立したりして活動の幅を広げてきた。
同会は、図書館行政への陳情をはじめとした各種活動も行ってきた。池上理恵さん(71)=同区=は「公立図書館と小さな会が互いの立場を尊重し、50年間、協力関係を築いてきた例は全国的にも珍しいと思う。会が経済的に自立する仕組みを作ったことが長く続けてこられた背景」と力を込める。小泉代表は「子どもたちが本に触れるには、本を手渡す人が必要。大人が学ぶ土壌をこれからも大切にしていきたい」と話す。
記念誌はB5判、122ページ、千円。申し込みはメール<yomukai.1972@gmail.com>坪井さんヘ。
講演「鍛錬の場だった」 児童文学者・清水真砂子さん
「ゲド戦記」(ル・グウィン作)の翻訳者としても知られる清水真砂子さん=写真=。読む会での毎年12月の講演は「自分に必要な鍛錬の場だった」と振り返る。演題は「人は何を見、何を見ないか」「子どもはどうやって“おとな”を知るの?」「わからなさに耐える力を」など多岐にわたり、独自の視点に基づく講話は受講生を引き付けた。
会を支えた女性たちは「自立した精神を持ち、凜[りん]とした姿が印象的だった」。「子どもがかわいいから」「本が好きだから」という理由ではなく、子どもを「歴史の中の子ども、社会の中の子どもと捉え、人が育つために、市民として何が必要かを考える集団だった」と信頼を寄せた。清水さんは昨年末を最後に講演を“引退”した。