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社説(3月4日)H3ロケット 万全の準備で再挑戦を

 日本の新型主力ロケットH3の1号機が、発射を試みたものの飛び立てなかった。主エンジンに続いて作動する、補助の固体ロケットブースターへの着火信号が出なかったとみられる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6日に再挑戦する。万全の準備で臨んでほしい。
 H3は、今後の日本の宇宙開発や衛星打ち上げビジネスで中心的役割を担うことが期待されている。出だしのつまずきを、何としても挽回したい。主エンジンの一部には清水町内の企業の製品も使われている。静岡県が2023年度から始める方針の衛星画像を活用した盛り土監視事業では、将来的に、1号機に搭載される地球観測衛星「だいち3号」が撮影する高精度な画像を使用する予定だ。
 2月の発射中断は、機体内の電池から主エンジン制御装置への電力供給が数秒間途絶えたことが原因のようだ。回路を構成するスイッチがオフになった可能性が高いという。開発するJAXAや三菱重工業は1号機の部品の点検や、機体を用いた異常の再現実験を進めてきた。打ち上げに向け、入念な詰めの作業が求められる。
 H3の1号機は当初、20年度に発射される予定だった。だがエンジン燃焼試験でのタービンの亀裂や異常振動などトラブルが相次ぎ、21年度中の打ち上げも断念した。JAXAの技術陣は複数の改善策を同時並行で進め、22年度中の発射を目指してきた。H3は24年度、日本の火星探査機の打ち上げ予定も抱えている。現場に過度の負担を生じさせていないかなど、多面的な検証を今後も続けてほしい。
 衛星打ち上げの市場は、米スペースXなど新興宇宙企業の台頭による価格競争が激化している。H3も打ち上げ価格の低減を掲げ、部品点数の削減や自動車用部品の流用などでコストの抑制を目指した。点検項目の絞り込みや自動化、組み立て工程の省力化も徹底したという。市場獲得を狙うあまりの見落としがないかも、慎重に点検しなければならない。
 内閣府によると、22年の世界全体の宇宙ロケット打ち上げ成功回数は177回。1位は米国の83回で、2位中国62回、3位ロシア21回など。日本は小型ロケット「イプシロン」6号機の失敗もあり、ゼロだった。国内外から商業衛星打ち上げを受注するとの目標にはほど遠く、信頼の回復は急務だ。
 先月には、三菱重工が国産初のジェット旅客機の開発から完全撤退することを発表した。H3の打ち上げ再挑戦を着実に成功させ、日本の航空宇宙産業の停滞感を打破したい。

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