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大自在(2月25日)「推し」の感覚

 静岡市出身の落語家柳亭楽輔さんの落語会に参加した。市内有志でつくる後援会が2003年から毎年催している。「やっぱり地元はいいね」。リラックスした表情で、毒舌交じりのマクラをひとしきり。ハッピーエンドの「幾代餅[いくよもち]」で締めた。
 搗米[つきごめ]屋の奉公人・清蔵と人気絶頂の花魁[おいらん]・幾代太夫が主役の人情話。格差や立場を超えた結婚を描く。男女を入れ替えた江戸時代の“シンデレラストーリー”である。
 興味深いのは、清蔵の恋わずらいが幾代太夫の錦絵から始まったという設定だ。本人に会う1年前に、多色刷りの木版画に一目ぼれしている。アニメの登場人物や動画サイトの仮想アイドルを「推し」とする現代の感覚と何ら変わりない。
 見る者の感情を揺さぶる版画の力もまた、時代を経て変わりがない。線と陰影、色彩の妙。本県はその魅力を愛する人が特に多いとされる。県版画協会の前身「童土社[どうどしゃ]」の第1回展は1929年にさかのぼる。協会は昨年、第86回展を開いた。
 今春、県内各地で木版画が主役の座を得ている。静岡市美術館の「東海道の美 駿河への旅」展は、歌川広重と葛飾北斎が描く東海道五十三次を見比べる趣向。新装した沼津市のモンミュゼ沼津は、市内で創作を続けた世界的版画家山口源(1896~1976年)の常設展示を始めた。浜松市では28日から、昨年の圧倒的な個展が記憶に新しい遠藤美香さん(同市東区)の展覧会が始まる。
 果たして、一目ぼれするほどの作品に出合えるか。「幾代餅」の清蔵に気持ちを重ね、各所に足を運びたい。

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