大自在(2月11日)血の通った組織

 以前、ある警察署管内で部活帰りの高校生が交通事故で亡くなった。将来の夢は警察官だった。程なく偶然行われた県警のパレードは、その高校生の自宅近くを通った。高校生を弔うかのように。
 実際、関係者からはそのためにコースを変えたと聞いた。ただ、署長に取材しても「何の話?」の一点張り。記事にはできなかったが、あれは高校生に対する県警の計らいだったと今も信じている。
 2021年7月3日に起きた熱海土石流災害で最後の行方不明者となっていた太田和子さん=当時(80)=の腕の骨が見つかった。DNA型鑑定で本人の骨と考えて矛盾がないと9日に県警が発表し、10日に熱海市が災害死認定した。土石流災害の死者は関連死を含め28人となった。
 1月18日に磐田署所属の関東管区機動隊員(23)が仮置き場の土砂をふるい、長さ15センチほどの骨を見つけたという。土砂の確認作業はあと2日で終了予定だった。
 奇跡を呼んだのは警察や消防など捜索に臨んだ人々の執念か。とりわけ県警は1年7カ月で延べ約2万人が現場で泥まみれの捜索に当たった。現場に行かないまでも関わった人員は延べ約9万5千人。指揮した幹部の一人は帰宅しても毎晩、太田さんがどこにいるかを考え、そのまま朝を迎えることもあったという。
 県警が県内の違法盛り土を精力的に摘発しているのは熱海土石流の悲しみや怒りを痛いほど知っているからだろう。行政の不作為や権力の乱用に国民の失望や諦観が広がる昨今、血の通った警察組織ほど頼もしい存在はないと思わされる。

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