コロナ越え 魅力を磨き伝える転機【2023年度 静岡県予算案特集】
静岡県が10日に発表した一般会計1兆3703億円の2023年度当初予算案は、新型コロナウイルス感染症対策が大きな転換期を迎える中、本格的なウィズコロナ社会の実現や持続可能な開発目標(SDGs)の達成をけん引する事業に重点を置いた編成となった。東アジア文化都市事業など本県独自の取り組みを契機に観光や地域経済の回復を図る一方で、エネルギー価格高騰など情勢の変化に対応できる社会基盤の構築も目指す。22年度に県内を襲った台風災害からの早期復興や、不安が増す保育環境整備も進める。(表の※は新規事業)

誘客拡大策 「文化都市」 国内外に発信
富士山世界遺産登録10周年に合わせ、日中韓3カ国が文化芸術を通じて交流する国際イベント「東アジア文化都市2023」を全県で展開する。本県の多彩な文化を国内外に発信することで、交流人口や観光誘客の拡大を目指す。2024年の浜名湖花博20周年の記念事業にも関連づけ、盛り上げを図る。
東アジア文化都市の推進事業費には4億9800万円を計上した。文化都市の式典や県文化局が行う文化芸術事業のほかに、他の部局や文化団体を実施主体とする「協働プログラム」は、文化の枠組みをスポーツや歴史文化、食文化、サブカルチャーなどにも広げ、先進的な取り組みを発信する機会と位置付けた。1事業の上限300万円で20事業程度の実施を想定し、幅広い分野への展開を目指す。
市町や地域団体の文化発信を促進する「地域連携プログラム」では、市町や市町の実行委が担う事業の費用に対し2分の1以内(上限500万円)を補助し、全市町での実施を後押しする。地域団体の事業は補助率4分の3または2分の1以内(上限30万円)で助成を行い、100団体程度の実施を見込む。予算案では両プログラムで計3億300万円を充てた。
富士山世界文化遺産登録10周年の関連事業には5800万円を計上。式典や国際シンポジウムなどの記念事業に加え、SNSを活用した富士山観光の魅力発信や大学生による次世代継承の機運醸成にも取り組む。
浜名湖花博20周年記念事業は7億2800万円を盛り込み、24年春からの記念イベント開催に向けた準備や23年度中のプレイベント、公園基盤整備などを進める。
スポーツ分野では、産学官連携で地域活性化を図る「スポーツコミッション」の設立や、パラスポーツの聖地づくりに向けた官民連携のコンソーシアム設立などに取り組む。
観光産業回復に力 宿泊・旅行の需要喚起
観光分野では本県観光産業の本格回復に向けた需要喚起策や、食や歴史文化などのテーマに応じた旅行の促進、観光DXの強化などに取り組む。
全国旅行支援の終了後も県内の観光需要を持続させるため、新たに県内宿泊旅行等促進事業費として1億2700万円を計上した。2022年度に補正予算で積み増した地域観光支援事業費と合わせ、割引額を段階的に調整するなどしながら閑散期の落ち込みを抑え、コロナ禍前への回復を図る方針。
インバウンドの旅行商品造成支援や、国内外の教育旅行誘致などにも取り組む。22年度に実施した観光アプリの実証実験を基に、23年度にデータマーケティングへの活用や市町への展開を目指す。
静岡空港は国際線の定期便拡充に向け、航空機の席数に応じて海外旅行商品などに販売支援金を交付する事業を継続する。
教育の推進 学びの環境整備に重点 トイレ洋式化加速や校舎改修
県立学校の魅力ある教育環境の整備を進めるため、施設整備や老朽化対策に142億5200万円を計上した。このうち、従来は修繕費などで対応してきた県立高のトイレ改修を新たに事業化し、4500万円を充てた。生徒に不評な和式便器やタイル貼りの床を、洋式便器やビニール素材の床に替える工事を加速するため、例年3棟前後だった設計着手を23年度は12校16棟に拡大する方針。
磐田市に新設する県立特別支援学校の本校整備を始めるほか、老朽化が深刻な沼津東高と静岡北特別支援学校でも校舎の建て替えに着手する。24年度から芸術科に県内初の演劇専攻を設置する予定の清水南高に、舞台照明などの設備を導入する費用として6200万円を盛り込んだ。
中学校部活動の地域移行に向けた取り組みとしては2800万円を計上。県の協議会設置やコーディネーターの配置、地域移行の実証事業などを行い、持続可能な部活動の推進を図る。
JR東静岡駅南口県有地(静岡市駿河区)に移転整備する県立中央図書館では、23年度に実施設計を始めるほか、移転地の埋蔵文化財発掘調査に取りかかる。新図書館の蔵書構築に向けた図書購入なども含め、計2億5500万円を計上した。
育児・少子化 事件教訓に管理体制強化 不適切保育根絶へ 総合相談窓口開設
県内保育施設で園児の安全が脅かされる重大事件や不適切保育が相次いだことを踏まえ、子どもの安全対策を強化する。少子化対策では結婚を望む人に対する支援を充実させる。
子どもの安全対策関連事業として3億9200万円を計上した。不適切保育の通報などを受ける保育総合相談窓口を3月に新設する。専用ダイヤルとウェブで相談を受け付け、県や市町の担当部署と内容を共有する。安全管理のチェック体制強化に向け、事前通告をしない抜き打ち監査も導入する。
国の保育の人手不足対策に連動し、国の基準より保育士を多く配置する定員121人以上の大規模保育所への補助金を拡充する。保育士の負担軽減を図るため、社会保険労務士らが施設を巡回し、業務改善の助言など勤務環境の向上につなげる取り組みも始める。
少子化対策関連事業には5億1300万円を投じる。市町と運営する「ふじのくに出会いサポートセンター」に、新たに2人の結婚支援コンシェルジュを配置。結婚支援の知識や経験が豊富な人材の起用を想定し、自治体の結婚支援策への助言などを手がける。
記者の目 選ばれる県 工夫必要
富士山世界文化遺産登録10周年の節目に、国際イベント「東アジア文化都市」を開催し、国内外に本県の魅力を発信する機会を設けた。多額の県費を投じる以上は、新型コロナウイルス禍で停滞を余儀なくされた県民の文化芸術活動の再活性化と同時に、本県観光産業の本格回復につながるよう交流人口拡大の実を挙げる取り組みが必要だ。
東アジア文化都市の関連事業は、国や県の主催行事から地域の民間団体による文化イベントまで幅広い展開が想定されているが、現時点で文化都市の趣旨や意義が県民に十分浸透したとは言い難い。世界情勢が緊迫化する中で、文化芸術を通じた国際理解の深まりを県民一人一人が実感できるような事業に期待したい。
2月下旬から静岡空港国際線運航が一部再開し、インバウンドの回復も見込まれる。5月には新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に引き下げられ、全国でさらに人の動きが活発化する。全国で本県が選ばれる場所になるには、情報発信にもう一段の工夫が求められる。(政治部・杉崎素子)