大自在(2月5日)バックカントリー

 スキーブランドの発表会に商品を届けるため、スキー場の管理区域外の「志賀・万座ルート」を滑り降りていく。バブル時代の映画「私をスキーに連れてって」を見返した。
 冬季滑走禁止のコースに飛び出した主人公らは、日が暮れて道に迷う。ビバーク(露営)しようとするものの、食料はバレンタインデーのチョコレートだけ…。映画の話だが、現実を考えればあまりに無謀だ。
 今冬、管理区域外でスキーなどの滑走が禁じられていないバックカントリーでの事故が多発している。先月30日には、米国籍のフリースタイルスキー元世界王者ら男性2人が長野県で雪崩に巻き込まれ亡くなった。
 日本の良質な雪は海外スキーヤーから「JAPOW」(JapanとPowder snowの造語)とも呼ばれ、人気が高いそうだ。新雪を求めてバックカントリーに立ち入る外国人も多く、それだけ危険性は増す。
 日本スキー学会の「スキー研究 100年の軌跡と展望」(道和書院)によれば、2014年から5年間のバックカントリースキー事故者456人のうち42%が外国籍。新型コロナウイルスによる入国制限が昨年10月に大幅緩和された。頻発する事故の背景には、訪日客増加があるともいえよう。
 山スキーのパイオニア、板倉勝宣は「山と雪の日記」に〈死とすれすれの自らの姿を岩と氷の天地にさらさねば満足できぬ人々には、天地が静かに雪に埋もれて待っていることを忘れてはならない〉と記した。感動と危険は隣り合わせ。板倉が立山で遭難死してから100年になる。

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