財政健全化と区再編 自民会派との調整に苦心【政令市長 成果と課題①/浜松市㊤】

 「16年、よくやってくれた。見事な手腕だった」。2022年10月。次期浜松市長選への不出馬を表明した鈴木康友市長(65)は最大の後ろ盾の鈴木修スズキ相談役(93)から手紙を受け取り、感慨に浸った。

浜松市役所で鈴木修スズキ相談役(右)と面会した鈴木康友市長。経済界の力に後押しされ、時に翻弄された=2022年8月、浜松市中区
浜松市役所で鈴木修スズキ相談役(右)と面会した鈴木康友市長。経済界の力に後押しされ、時に翻弄された=2022年8月、浜松市中区
浜松市の市債残高の推移
浜松市の市債残高の推移
浜松市役所で鈴木修スズキ相談役(右)と面会した鈴木康友市長。経済界の力に後押しされ、時に翻弄された=2022年8月、浜松市中区
浜松市の市債残高の推移

 4期目に入り、鈴木相談役から「(行政区再編に)道筋が付いたら辞めた方がいい」と勧められた。一方、幾度となく「未練はないか」とも尋ねられた。最終的には後援会関係者を通じて「約束は全部やりきった」と、率直な思いを伝えた。
 鈴木市長にとって、経済界や市議会との複雑で繊細なパワーバランスの波間で、財政健全化に奔走した政治生活だった。諮問機関の行財政改革推進審議会(行革審)会長だった鈴木相談役の支援で07年に初当選すると、行革審の提言を基に1年目から補助金の大幅削減など強気の改革を実現した。
 その後も「将来にツケを回さない」と合理化を重ね、16年で減らした市債残高は就任当初の23%に相当する1300億円に達した。健全性は政令市の中で屈指となった。だが、経済界の意をくむ改革は「議会軽視」「市民不在」と厳しく批判され、行革審提言で最大の未達成課題だった行政区再編は市議会最大会派、自民党浜松の猛反発で停滞した。
 鈴木相談役に再編実現の“厳命”を受けた4期目。鈴木市長は自民会派への態度を一変させた。他会派から「根回しも自民偏重」と不満が出るほど配慮を見せた。行政区再編を扱う市議会特別委員会の委員長で、同会派の高林修市議(71)は「議会の主張が尊重されるようになり、会派内の空気が変わり始めた」と振り返る。
 ただ、意見集約は容易でなかった。複数の関係者が「市長が自民をまとめきれず、見かねた経済界関係者が調整に乗り出した」と舞台裏を明かす。市長の存在感は揺らぎ、再編案は自民提案が色濃くなった。再編の行革効果は後退し「結局は自民が決めるのか」と冷めた声が漏れた。
 行革は鈴木市政の看板政策だった。12市町村合併前の旧町役場が協働センターなどと改称された北区や天竜区では職員の削減が進んだ。鈴木市長が「行政区再編で市民サービスは落ちない」と繰り返しても、住民の不安は根強く残った。元自治会役員は「町の頃の活気が懐かしい。もっと寄り添ってほしかった」と不満をあらわにする。
     ◇
 今春の任期満了で、県内の両政令市長が退任する。4期16年務めた鈴木康友浜松市長と3期12年を担った田辺信宏静岡市長。2人のリーダーは何をもたらし、何を積み残したのか。統一地方選を前に、両市の特徴的なテーマから成果と課題を追う。

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