「ゾコーバ」は症状軽減が目的【ちょっと得するクスリの知識】
新型コロナウイルス感染症は、2019年12月初旬に中国の武漢で第1例目の感染者の報告があり、わずか数カ月で世界的に大流行しました。現在も収束には至っていませんが、ウイルスの毒性は低下してきており、発生当初に比べると感染が大きな脅威ではなくなりつつあります。この3年の間に、日本国内では治療や予防に関わる幾つかの薬が、通常とは異なる方法で速やかに承認されました。昨年11月には、飲み薬として外来診療で処方ができる3番目の抗ウイルス薬「ゾコーバ(エンシトレルビルフマル酸)」が承認されました。治療薬として広く処方される可能性があるので解説します。
先に承認された抗ウイルス薬との違いは大きく2点あります。1点目は使用する患者です。先の薬は新型コロナで重症化する危険因子がある患者を対象としています。重症化の危険因子は65歳以上、がん、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙などです。「ゾコーバ」ではこれらの危険因子がない、そもそもは健康な主に若い人を対象としています。
2点目は治療の目的です。先の薬は、上述の対象者が入院することや死亡する危険性を減らすものです。「ゾコーバ」は新型コロナによる症状の軽減を目的としています。軽減できる症状は鼻水または鼻づまり、喉の痛み、せき、熱っぽさまたは発熱、倦怠[けんたい]感(疲労感)で、これらの症状がある期間をおおよそ8日間から7日間に短縮します。また、体内のウイルス量を減らすことが確認されていますが、これがどのような効果をもたらすのかは定かではありません。そして現在のところ、重症化を抑える効果は認められていません。
さらに、飲み合わせが悪い薬が多数あります。妊婦や妊娠している可能性がある女性には使用できません。承認時に得られている有効性や安全性などの情報が限られているため、使用に当たっては文書による同意が必要です。
重症化の危険因子がない軽症者の多くは、自然に治っていきます。このような薬の使用に当たっては、医療従事者だけでなく患者にもより慎重な対応が求められます。(竹下秀司/静岡県病院薬剤師会理事)