リニア大井川水問題 JRの十分な説明なく 田代ダム案、議論加速を【解説・主張しずおか】

 リニア中央新幹線トンネル工事に伴う大井川減水対策として、JR東海が2022年4月に提案した田代ダム取水抑制案は議論が進展しないまま越年した。静岡県有識者会議の専門部会のこれまでの議論で、冬場の渇水期にも実行可能な案であるのかなどJR東海から十分な説明はなかった。リニア工事と水資源保護が両立できるのかを左右する核心のテーマであり、関係者は成案を得るための議論を加速させるべきだ。

2017年の田代ダム日平均取水量報告書。3月下旬から4月上旬にかけて毎秒1.5トン以下と少ない日が並んだ
2017年の田代ダム日平均取水量報告書。3月下旬から4月上旬にかけて毎秒1.5トン以下と少ない日が並んだ

 JR東海は昨年12月の専門部会で、県外流出量が最も多い予測(毎秒0・68トン)でも、冬の渇水期に流出量と同量の取水を抑制でき、案は成立すると説明した。しかし、JRの試算は、ダムを管理する東京電力側が発電施設維持のために最低限必要とする取水量などが考慮されているのか不明で、委員の理解を得られなかった。
 静岡新聞社が国土交通省への情報公開請求で入手した資料によると、井川地点の年間降水量が過去10年間で最少だった17年の田代ダムの取水量は3、4月が最も少なく、3月20日から4月6日にかけて日平均取水量は毎秒1・52~1・08トンで推移した。トンネル掘削に伴う河川流量の減少分を考慮しても、毎秒1・05トン以上取水している状況であれば、理屈上は案が成り立つ。
 ただ、取水量が限りなく少なくなる状況を東電が認めるかは別問題だ。専門部会の委員からも「東電が協力する確約はどのような形で示されるのか」との指摘があった。東電側はこれまでの取材に「JR東海が関係者の了解を得た後に具体的な協議に入る」との考えを示し、県などとは直接交渉しないとしている。
 利水団体と流域市町で構成する「大井川利水関係協議会」などの合意を得た後、東電との協議をJRに委ねるしかない。
 流域が「返せる水があるのなら恒久的に返してほしい」と、リニア工事後も田代ダム取水抑制の継続への期待を寄せるのはもっともだが、水利権の話にまで踏み込むと、東電側が田代ダム案の協力に二の足を踏む可能性がある。あくまで田代ダム案は工事期間限定の方策で、水利権の議論と分けるべきだろう。
 JRは昨年10月、山梨から静岡との県境を越えて高速長尺先進ボーリングを行うと突如表明し、県と専門部会が反発している。敢行すれば田代ダム案の議論が台無しになりかねず、今は自重すべきだ。

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