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熱海土石流 盛り土造成前の砂防ダムに泥水 専門家は「表面浸食」指摘 砂防法基準に該当

 2021年7月の大規模土石流の発生前から、熱海市の逢初(あいぞめ)川の砂防ダムに上流域の流出土砂がたまっていたとされる問題で、盛り土が造成される前の07年4月、砂防ダムに土砂交じりの泥水が流れる様子を撮影した写真が市の公文書に掲載されていたことが20日までに分かった。専門家はこの写真から、上流域で自然堆積土砂が崩れる「表面浸食」が起きていたと推定。砂防法適用の基準に該当していて、県が適切に適用していれば盛り土の造成そのものを防げていたとみられる。

逢初川上流域の開発状況と県の砂防法対応
逢初川上流域の開発状況と県の砂防法対応
2007年4月の熱海市公文書に掲載された砂防ダムの水抜き穴(上)とダム下流側の逢初川(下)の写真。濃い泥水が流れ出している
2007年4月の熱海市公文書に掲載された砂防ダムの水抜き穴(上)とダム下流側の逢初川(下)の写真。濃い泥水が流れ出している
逢初川上流域の開発状況と県の砂防法対応
2007年4月の熱海市公文書に掲載された砂防ダムの水抜き穴(上)とダム下流側の逢初川(下)の写真。濃い泥水が流れ出している

 市の公文書には、同年4月25日付の砂防ダム直下で撮影した5枚の写真が掲載され、濃い茶色の泥水や土砂が写っていた。泥水が流れた河口付近の写真もあった。2日前に市職員が上流域を砂防ダムまで歩いて調査し「沢筋を重機が走行したため土砂道ができ、下流に土砂が流失した」とも記録していた。
 写真を見た土屋智静岡大名誉教授(砂防学)は「泥水は(開発された)上流域の表面浸食で運ばれたものだろう。急激に開発しているので(森林状態と比べ)数百倍に土砂流出量が増える。河口まで流れているので水量が多く、開発が広範囲だった可能性がある」と指摘。砂防ダム底部から水抜き穴まで土砂がたまっていたとする見方も示した。
 市の担当者は取材に「(上流域が)裸地になった影響が出たのではないか」と説明。「裸地」は木を伐採するだけでなく、根を掘り返して地山の土がほぐれた状態という。県砂防課は「(開発の)届け出を受けた市が原因をしっかりと調べるべきだった」と責任を否定した。
 県の公文書には盛り土造成時の09年11月、「砂防ダムは土砂でかなり埋まっている」という職員の発言が記されていた。撤去記録は見つかっていない。

規制区域の要件 他にも
 国は過去の土石流災害の教訓を踏まえ、1989年に砂防法で盛り土などを規制する区域「砂防指定地」の指定基準を都道府県に示している。盛り土造成前の逢初川上流域は今回判明した「表面浸食」だけでなく、地形・地質上の危険度の高い「土石流危険渓流」など複数の基準が該当していた。
 指定基準は「渓流や河川の縦横浸食、山腹崩壊」「風水害や震災」「土石流危険渓流」「開発区域・開発予想区域」など7項目を例示している。都道府県はこの基準を参考に国に指定を申請することになっている。
 国土交通省監修の解説書「砂防指定地実務ハンドブック」は、指定基準の「山腹崩壊」に「表面浸食を含む」としていて、保全対象の人家の上流にある「開発区域・開発予想区域」は「特に注意すべき」と記している。
 別の市の公文書によると、上流域の七尾調圧槽付近で2007年7月、台風による土砂災害が発生した。土砂の堆積が「顕著」であれば「風水害」の指定基準も当てはまる。

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