テーマ : 政治しずおか

女性議員どう増やす 参画に課題 現職ら議論 地方議会と女性座談会【NEXTラボ】

 4月に迫る統一地方選。「政治分野の男女共同参画推進法」は男女の候補者数をできる限り均等にする目標を掲げるが、実現への道筋は見えない。県議会や県内市町議会でも少数派にとどまる女性議員をどう増やすか-。静岡新聞社は昨年12月、連載企画「地方議会と女性」の総括として現職市議らによる座談会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。静岡大の井柳美紀教授(政治学)の進行で議論した。

 今も残る〝男性現職優位〟/生活に直結 力発揮できる
 日本の国会議員の女性割合は世界的にも最低レベルにあり、地方も同様。県内を見ても県議会13%、市町議会で16%と低率だ。国は2018年に政治分野の男女共同参画推進法を整備したが、成果は見えてこない。
 宮城 静岡市議会は議員48人中、女性が3人と非常に少ない。私は現在2期目だが、地域の状況としては今も現職優位、男性優位で、議員の後継は男性、という雰囲気があるのでは。7年ほど前に介護問題への関心から自ら出馬を決めたが、最初の選挙は地域の応援を得られず、独自に戦った。女子高、女子大卒で、就職後も性差を意識するような場面がなく、議員になって初めて女性を意識した。自分が市民にとって重要と考える意見を通すために、女性の仲間が必要と痛感している。
 嶺岡 掛川市議会は21人中6人が女性。私は2期目になるが、1期目の時は4人、それ以前は1人だったので順当に増えてきている。議会で「男性だから」「女性だから」という意識は薄れてきているように思う。現在属する会派(議会内のグループ)の代表は女性。1期目に所属した最大会派は当時、女性がいなかったが、前回選で10人中2人が女性になって空気が変わってきたと聞いている。
 斎藤 御前崎市議会は議員15人のうち女性は自分1人だが、普段の活動で困ることや不都合は特にない。ただ、地方議会では女性が半数以上いてもいいと考えている。議論することの多くは福祉、医療、教育、経済など生活に密着したテーマで、女性の力が十分に発揮されると思う。私自身も産廃施設建設をめぐる住民投票がきっかけで議員の仕事に関心を持った。
 内田 女性議員が増えないという課題は、民間企業において女性の管理職や経営者が増えない問題と構造がまったく同じと感じる。

 女性議員を増やす必要性や意義をどう感じているか。
 嶺岡 女性が増えて一般質問のテーマも広がったと感じている。政策を決定するのが議員の仕事だが、そこには価値観や生活経験の異なる多様な人材が必要だ。多様な人材が議会に入れば、「政治を男性のもの」と考える社会の中でできてきた政治慣習のようなものも、少しずつ変わっていくのでは。
 内田 企業ではダイバーシティ(多様な人材活用)の推進が経営上プラスの効果をもたらすという認識が徐々に広がっている。効果として商品やサービスの質の向上、業務の効率化、社員のモチベーション向上、人材採用への効果-の四つが言われる。議会に当てはめると、例えば若い人や女性がもっと入ってくると、市民サービスが向上したり、議会運営が効率化されたり、より多くの人が議員を志向したり-という効果が期待される。実証的な効果を分かりやすく示していくべきでは。
 宮城 最近で言えば、生理の貧困が問題化されたのを見ても、政治家に女性の声を拾う感性は重要だ。静岡市では22年4月にパートナーシップ宣誓制度を施行したが、この実現について男性だけではハードルが高かったと感じている。こういう問題に関し、もっと仲間がいればと切実に思った。
 初当選後の〝育休〟を断念/両立支援と活躍の場大事  女性が議員になるにはさまざまな壁がある。性別役割分担の意識の根強さ、家事育児との両立の難しさに加え、セクハラ被害などもおそらく他の職場より問題が表出しにくいだろう。皆さんが特に壁と考えることは。
 嶺岡 初当選した17年に第4子が生まれた。上の子も含めて積極的に育児をしたいと思い、議会で「1カ月の育休宣言」をすると、複数の有権者から「そんな考えなら応援しない」などと批判的な意見をいただいた。さまざまな理由はあったが、最終的に断念せざるを得なかった。
 宮城 「家事、育児、介護は女性の仕事」という時代ではないといわれ、制度面が変わってきても、人の心はなかなか変わらない。男女ともに心を変えるのは大変。
 斎藤 私は地域推薦をもらって立候補した訳ではなかったので“地域の壁”はなく、家族も反対しなかった。ただ、家族の反対で立候補できなかった女性の話を聞いたことはある。
 内田 「男女はこうあるべき」という役割分担意識は年齢が高い人ほど強固。民間では若い人への事業継承を機に組織の改革が進むことも多い。嶺岡さんは自身の後任の会派長に女性を指名されたと聞く。嶺岡さんの世代なら、ごく普通に女性に任せようという発想が生まれる。政治の世界でも世代交代を早めてほしい。
 宮城 浜松市議会は任期中に出産する議員がいたからこそ、働きやすい環境が整ってきたのでは。実際に女性が増えれば壁は除かれていくと思う。
 内田 セクハラについて言えば、その根底には女性に対する「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」がある。そこをまず学ぶのが大事。被害相談の窓口は第三者機関が担うべきだと考える。

 働きやすい環境のほかに考えるべきことはあるか。
 内田 女性活躍における働きやすさには、二つの側面がある。仕事と家事育児の両立のしやすさと、役職に就くなど経験を積める機会があるかどうかだ。企業は両立支援さえあればいいと勘違いしてきたが、両方なければ女性活躍は進まない。
 嶺岡 掛川市議会はその意味で、女性の役職登用はこれから。議会は年功序列が重視される面が大きいので、女性が入ってきても立場を築くまでに時間がかかる。そのあたりも変わる必要があるのかもしれない。
 宮城 その点、静岡市議会の自民党会派は少しずつ変わってきていて、責任ある立場に女性を配するようになってきた。法整備やそれに伴う報道の効果だと感じている。  候補者の割当制 導入必要/政策本位の選挙に転換を  欧州諸国では、まずクオータ制(人数割当制)を導入して女性議員の数を増やし、男女半々の議会を定着させた例もある。日本では議論が進まないが、制度による変革は必要か。
 宮城 議員は政策と人物で評価されるべきで、女性であることを理由に優遇されるのはおかしいと考えてきたが、ここ数年で気持ちが変わった。このままでは女性議員は増えない。立候補者のうち女性が一定以上になるよう、政党に義務付けるなどの制度は必要と考える。
 斎藤 クオータ制については必要性は感じるが、現在の立法府である国会の状況を見ると実現には壁がある。政治分野の男女共同参画推進法は政党に男女の候補者数の目標設定など自主的な取り組みを求めているが、政党に属さない議員が多い地方議会では実効性が薄く、別のやり方が必要と感じる。
 内田 実力を考慮しない数値目標ありきのやり方は問題も多いが、自然に男女同数に近づかない状況なら、制度の導入は必要なのではないかと思う。立候補者のクオータ制を導入すれば、政党も有権者も「誰が候補者になり得るか」と初めて意識するだろう。
 嶺岡 政治の世界は今が過渡期で、少しずつだが女性は増えている。無理に制度を入れる必要はないと思う。ただ、限られた地域のみの利益を代表するような地方議員の在り方は変えていくべきだ。行政全体を見渡した政策や訴え重視の選挙になれば、自然と女性も参画しやすくなる。同時に、政党という枠の中では女性候補者をしっかり増やしてほしい。

 市町議会議員選挙は、確かに自治会や町内会など地域の力が大きいのが実情だ。地縁、血縁頼みでない施策本位の選挙が実現すれば、女性や若者の視点も生きる。 若者、女性と接点増やして/「大変」のイメージ除きたい  21年の法改正で、政党や政治団体には候補者の人材育成も求められる。現在も政治塾などはあるが、多様な場が必要と感じる。
 宮城 個人的に、政治に関心がある女性向けの勉強会を構想している。まずは、目の前の暮らしをどう良くするかという問題意識を高めるのが重要だ。
 嶺岡 現職議員と候補者がつながることは重要。一方、選挙ではライバルになる難しさもある。現役を退いた元議員による候補者育成の団体があれば理想的ではないかと思う。
 斎藤 地方議会では次世代にいかにバトンをつなぐかが課題で、人材育成の仕掛けは欠かせない。その意識を上の世代の議員とも共有したい。

 女性議員を増やすには、有権者の政治への関心も大切。立候補の重要性を含めた教育も不足している。どう関心を呼び起こすか。
 内田 正直、普段の生活の中で、地方議員の皆さんの考えはまったく伝わってこない。政治に憧れる若者もごく少数。建設的に議論し地域を変えていく姿が、もっと認知されていかなくては。子どものころから議員と間近に接する機会があってもいい。オンラインやSNSも活用し、若者や女性との接点を増やしていってほしい。
 斎藤 「議員の仕事は大変」というイメージがあるが、時間ではなく質が問われる仕事だ。やり方次第で、家事や育児との両立も十分可能と思う。また、女性議員には「戦う女性」のイメージが強いが、実際には周囲と調和しながら自身の政策を実現している人も多い。そういうことを広く知らせたい。
 宮城 地元以外では活動報告の機会は限られ、活動をどう知ってもらうかは悩み。社会の政治的関心を高めるためには学校教育の役割も重要で、議員が子どもと一緒に地域のことを考えるような場があればと思う。
 嶺岡 現職議員として、この仕事がどんなに楽しく魅力があり、大切なものであるかを、もっと発信していかなければと思う。ロールモデルを示すことが、有権者の政治や議員への関心を呼び起こすことにつながる。
 内田 企業が議会でのインターンシップ制度などを導入しても面白い。社員が地域課題を学べば自社サービスにも生きる。

記者の目 手を挙げやすい社会に
 女性県議や県内市町議会の女性議員へのアンケートを基に、連載企画「地方議会と女性」に取りかかって1年余り。この分野におけるジェンダー平等の遅れについて、専門家が「世の中から取り残されている」と漏らしたのが印象に残る。
 取材の中で、女性議員を増やしたいと考える関係者から多く聞かれた「手を挙げてくれる人がいない」という声。その裏には、女性が手を挙げにくい社会的な要因や構造があり、社会のさまざまなレベルでそれを変える努力が必要だ。なり手不足を女性の「やる気のなさ」に帰結させないでほしいと願う。
 女性の政治参画は一部の女性の権利問題と受け止められがちで、なかなか広く一般の関心事になっていない。だが、人口減少による地方の衰退が懸念される中で、市町の政策決定の場に男女問わず多様な人材が加わることは、住みやすく活力ある地域を維持するために重要になる。若い世代には特に関心を寄せてほしい。

 ■出席者  photo02  座長 井柳美紀(いやなぎ・みき)さん 静岡大教授 米国オレゴン州出身、両親の実家は静岡。東京大大学院修了。宮城教育大准教授、静岡大准教授を経て2015年から現職。専門は政治学。主催者教育や若者の政治参加の実践にも取り組む。
 photo02  斎藤佳子(さいとう・けいこ)さん 御前崎市議 2020年4月に初当選し、1期目。53歳。同市議会で唯一の女性議員で、最年少。県内女性市町議員ネットワーク「なないろの風」のメンバー。小学生1児を子育て中。
 photo02  宮城展代(みやぎ・のぶよ)さん 静岡市議 環境リサイクル事業会社経営、介護事業所勤務などを経て、2017年に静岡市議に初当選。自民党市議団所属。2期目。67歳。まちづくり拠点調査特別委員長。子ども2人は社会人。
 photo02  嶺岡慎悟(みねおか・しんご)さん 掛川市議 旧大東町出身。建設会社、静岡市役所勤務を経て2017年、掛川市議に初当選。現在2期目、文教厚生委員長。4児の子育て中の41歳。1級建築士、建築事務所経営。
 photo02  内田美紀子(うちだ・みきこ)さん 「るるキャリア」顧問 2012年、人材育成を手がける「るるキャリア」(静岡市)を創業。企業の働き方改革やダイバーシティを推進してきた。21年から顧問。県女性経営者団体「A・NE・GO」メンバー。      
 ※斎藤佳子御前崎市議は別日に取材し、全体を再構成しました

いい茶0

政治しずおかの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞