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災害時に備え「ポリ袋調理」 お水は少量、洗い物なし おいしく炊飯、オムレツ、煮物… 静岡新聞SBS浜松総局記者が体験

 1人暮らしもまもなく丸3年。初めは意識して自炊に取り組んでいたが、最近は外食に頼りっぱなし。「買っても腐らせてしまうから」と食材を買う機会が激減し、自宅の棚や冷蔵庫はほとんど空っぽだ。こんな状態で、災害時の備えは大丈夫なのか。ふとした危機感から、浜松市の環境学習指導者で、小学校で災害時に役立つ「ポリ袋調理」を教えるフォーラムEの山口雅子代表(66)に指南を依頼した。浜松総局の同僚、日比野都麦記者とSBS浜松報道部の山口駿平記者と共に、講座へと向かった。

災害時に役立つ「ポリ袋調理」を記者2人に教えるフォーラムEの山口雅子代表(右)=浜松市中区
災害時に役立つ「ポリ袋調理」を記者2人に教えるフォーラムEの山口雅子代表(右)=浜松市中区
ポリ袋調理で作り上げた料理
ポリ袋調理で作り上げた料理
災害時に役立つ「ポリ袋調理」を記者2人に教えるフォーラムEの山口雅子代表(右)=浜松市中区
ポリ袋調理で作り上げた料理

 まず、山口代表からポリ袋調理について説明を聞いた。耐熱のポリエチレン製の袋に米や食材を入れて空気を抜き、真空状態で湯せんなどして食事を作る調理法だ。一つの鍋で複数人分の料理ができるため、流動食やアレルギーに対応した食事も個別に作ることができる。
 いよいよ米を炊く作業。米半合と水を袋に入れ、空気を抜きながら上の方で袋を結んで沸騰した鍋に入れる。わずか30分でふっくらとしたご飯が炊きあがった。水は袋に入れた110ミリリットルのみ。災害時は鍋の水は飲み水でなくても問題ない。
 大雨で大規模な洪水が発生すれば在宅避難を余儀なくされ、容赦なく断水や停電、物流停止が生活を襲う。水が貴重となる災害時、洗い物を出さず、少量の水で調理ができる点がポリ袋調理の最大の利点だそうだ。
 ご飯と同時にオムレツにも取りかかる。袋の中で調味料と卵をもみほぐし、舟形に形を整え、同じく湯せんした。ほかに、切り干し大根とさば缶の煮物やお麩[ふ]トリュフなど、豪華なポリ袋料理メニューがそろった。
 「災害時、1人暮らしは孤立しがち」と山口さん。地元を離れた生活では、頼れる親族は近くにいない。缶詰や瓶漬、乾物、発酵食品などを賞味期限に合わせて上手に「ローリングストック」する大切さも痛感した。
 ポリ袋調理の工程は簡単そうに見えるが、空気の抜き方、袋を破らないもみ方など、いくつかのこつが必要。家庭で一度練習しておくことが肝心だ。
 (浜松総局・北井寛人)

非常時 健康維持の味方に
 ポリ袋ならなんでもよいと思って家から持参したが、調理に対応したものでなければならず、使えなかった。災害時を想定し、調理用の袋も常備しておくことが必要だと思う。
 調理の際、中を真空状態にするために袋の口をねじる。これが1人だと意外に難易度が高い。非常時でも、可能であれば、今回のように複数人で協力する方がよさそうだ。
 肝心の味は、通常の調理法で料理したときと比べて遜色がなく、驚いた。水の使用を最小限に抑えながらも、おいしい食事を作ることができる。被災時でも、食生活を守り、心身の健康維持へ心強い味方になると感じた。
 (SBS浜松報道部・山口駿平)

ポリ袋を利用した料理のレシピ
 ■ご飯
 材料…米半合(90cc)、水110ml
 (1)ポリ袋に米を研がずに入れ、水を加える。
 (2)片手でポリ袋を持ち、もう片方の手で下から挟むように空気を抜き、上の方で袋の口を結ぶ。
 (3)水の入った鍋に入れ、ふたをして火にかける。沸騰したら、その状態で15分湯せんする。
 (4)15分後、火を止め、さらに15分蒸らす。
 (5)鍋から上げ、袋の口をはさみで切って空気を入れる。ふきんで包みながらおにぎりに。

 ■オムレツ
 材料…卵1個、マヨネーズ、豆乳または牛乳
 (1)ポリ袋に材料と、塩少々を入れ、よくもみほぐす。
 (2)卵を袋の下の方に集めて、形を舟形に整え、口をしっかりと結ぶ。
 (3)沸騰した湯の入った鍋に入れる。袋を上下に振ったり、箸で転がしたり、形を整えながら5~8分湯せんする。
 (4)鍋から上げ、5分蒸らす。


「SDGsとつながりも」 市が講座、地産地消を重視
 フォーラムEは2018年から、浜松市環境政策課が進める環境学習プログラムの一環で、ポリ袋調理の講座を開いている。市の担当者は「災害時はエネルギーや食材が不足する。水を無駄にしないなど、ポリ袋調理から学べることは環境問題に通じる部分がある」と話し、環境保全などを掲げるSDGsとの関係性を強調する。
 講座は地産地消を重視している。今回も、同市天竜区春野町産の切り干し大根を使用した。遠方から食材を運送するエネルギーを減らすとともに、地場産業への貢献にもつなげたい考えだ。
 山口雅子代表は岩手県の実家が2011年3月の東日本大震災で被災したことをきっかけに、ポリ袋調理法を研究し始めた。「避難生活が続けばストレスが大きくなる。防災食としても使える食材を日ごろから用意してほしい」と話す。
 (浜松総局・日比野都麦)

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