大自在(12月24日)物流
クリスマスを最初に詠んだ俳人は正岡子規という。「クリスマスに小[ちいさ]き会堂のあはれなる」。明治期に、ろうそくをともしたミサだろうか。つましい聖夜を想像する。
今年はクリスマス寒波到来。いてつく空気に街中のイルミネーションが映える。都内の老舗ホテルは「エッセンシャルワーカーの皆様へ」とうたい、玄関のツリーを青く照らした。1、2年前はもっと街のあちらこちらで命と暮らしを支える人たちへの感謝の電飾があったような。
エッセンシャルワーカーの代表格に、物流に携わる人たちがいる。ネット通販が浸透し、クリック一つで自宅に荷物が届く。商品案内に添えられた「送料無料」の文字が手軽さを誘う。
その担い手の実情は、元トラック運転手橋本愛喜さんの著書「トラックドライバーにも言わせて」(新潮社刊)に詳しい。荷物を安全、無傷、定時に届けるためドライバーは心身を削っている。「わざわざこの『無料』という言葉が使われることに、存在を消されたような感覚になる」。一文が胸に刺さった。
物流業界では「2024年問題」が俎上[そじょう]に上る。運転手の時間外労働の上限規制が24年4月から適用され、物流の滞りが懸念されている。業界は自動化や機械化の導入を進めているが、人の手を介さずに荷が届く時代はまだ先だ。
子規は34年の生涯でクリスマスを季語に6句残す。病床にあった32歳の句「贈り物の数を尽[つく]してクリスマス」。贈り主の思いを届ける聖夜、サンタクロースのごとく現代の物流を支える人たちに改めて気持ちを寄せたい。