熱海土石流/損賠訴訟併合審理へ 責任追及、当事者そろう【追跡2022③】

 14日、静岡地裁沼津支部の法廷。「住民の生命財産を守る責務を全うするために、行政はやるべきことをやってきたのか。到底そうは思えない」。熱海市伊豆山の大規模土石流の遺族、被災者でつくる「被害者の会」の瀬下雄史会長(55)の怒りを帯びた低い声が響いた。

家族の遺影を胸に、県と熱海市を相手取った損害賠償請求訴訟に臨む遺族ら=14日、静岡地裁沼津支部
家族の遺影を胸に、県と熱海市を相手取った損害賠償請求訴訟に臨む遺族ら=14日、静岡地裁沼津支部

 未曽有の「人災」の責任追及を巡り、遺族らが県と熱海市に計約64億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論。被告席で瀬下会長の意見陳述に耳を傾けたのは県の代理人のみで、熱海市の代理人の姿はなかった。
 事前に答弁書を提出した市が初弁論を欠席することは法的に認められている。ただ、遺族からは「不誠実だ」「私たちと向き合う気がないのか」と怒りや嘆きの声が噴出した。
 遺族らは昨年9月、違法な盛り土を造成し、長年放置したとして現旧土地所有者らに計約58億円の損害賠償を求めて提訴。今年9月には違法な盛り土造成を黙認したなどとして県と市を訴えた。これに対し、現旧所有者は盛り土への関与を否定し、県と市も法的責任はないと主張。4者が責任をなすり付け合うような陳述が目立ち、真相究明は混沌(こんとん)としている。
 地裁沼津支部は今月14日、4者が被告になっている二つの訴訟を併合審理することを決めた。1月から非公開の弁論準備手続きが始まる。原告側の加藤博太郎弁護士は「全ての当事者がそろい、ようやくスタートラインに立った」と、責任追及の新局面突入に期待感を示すが、旧所有者が市に盛り土造成を届け出てから15年以上がたち、関係者の数も膨大であるため、争点整理だけでも相当な時間を要するとみられる。
 最愛の夫=当時(71)=を土石流で亡くし、原告に名を連ねる女性(72)は切実に訴える。「あれから私たちの生活は地獄そのもの。業者も行政も、亡くなった人たちに謝ってほしい。ただそれだけ」

 <メモ>2021年7月3日に熱海市伊豆山で発生した土石流により、関連死を含め27人が死亡、1人が行方不明になっている。県が設置した行政対応検証委員会は今年5月、現旧所有者に対する県と市の一連の対応を「失敗」と総括した。

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