浜松・天竜の盛り土崩落 住民「SOS」生かせず 再発防止の意識、官民で【解説・主張しずおか】

 台風15号の記録的豪雨で浜松市天竜区緑恵台の盛り土が崩落し、住宅3棟が全半壊した。新興住宅街の空き地に長年にわたって無届けのまま積み上げられた産業廃棄物と残土の山は、8100立方メートルに達していた。熱海市伊豆山の土石流災害から1年余り。なぜ、教訓は生かされず、惨劇は繰り返されたのか。再発防止に向けた検証と実効性ある対応策の構築が急務だ。

周辺住民から再三通報が寄せられたが、豪雨により崩落し、住宅をのみ込んだ盛り土=9月25日、浜松市天竜区緑恵台
周辺住民から再三通報が寄せられたが、豪雨により崩落し、住宅をのみ込んだ盛り土=9月25日、浜松市天竜区緑恵台

 緑恵台の盛り土崩落までの経緯をたどると、人災と言わざるを得ない実態が浮かび上がってくる。住民から最初の「SOS」が発されたのは、2014年。浜松市に産業廃棄物の投棄があると通報が寄せられた。17、18年には周辺の土地所有者から土砂の越境と瓦やコンクリート片の混入について相談があった。21年末には自治会幹部が市に現地の安全確認を要請。これを受け、市は22年1月に土地所有者の親族へ盛り土の届け出などの対応を促したが、具体的な措置はなされなかった。8カ月後、多くの住民の懸念は現実のものとなった。
 14年の通報時には、市が産廃を投棄した業者を指導し、撤去に至っている。しかし、この危険な土地が継続して行政の監視下に置かれることがなかった。なぜ、再三の通報があったにもかかわらず、効果的な対応措置が取られなかったのか。この点の検証と反省は、再発防止に不可欠だろう。
 市は11月、第三者委員による発生原因と一連の行政対応についての検証を始めた。委員の一人、兵庫県立大大学院の青田良介教授(行政学)は「こうした事例は他の地域でも起こり得るはず。その意味で今回の検証は重要。教訓として生かすための検証を行っていきたい」と語る。
 熱海市伊豆山の土石流の教訓を生かす取り組みは進められつつある。県は、不適切な工法の盛り土が被害を生んだことを踏まえ、7月から県内35市町と連携して住民から通報を受け付ける「盛り土SOS」の運用を始めた。5カ月間で98件の相談が寄せられ、うち24件が継続的な監視と巡回の対象となっている。県盛土対策課は、通報ごとに現場と規制に関する法令を確認し、対応を強化している。
 盛り土は命を奪う凶器となり得る。住民はどんな小さな危機感でも「SOS」を発するべきだ。行政はその声を聞き入れ、悲劇の芽の摘み取り役に徹してもらいたい。

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