大自在(12月14日)拡散する

 新型コロナウイルスのワクチン集団接種会場を訪れた際、玄関脇に警備担当とおぼしき人がずらり並んでいた。物々しい雰囲気。声をかけたら「いろいろな方がいらっしゃるので」と硬い表情だったのを思い出した。
 焼津署など8署と県警公安課が建造物侵入の疑いで反ワクチン団体のメンバーとみられる男女8人を逮捕した。接種中止を求めるため会場に侵入した疑い。制止を振り切り、抗議活動を数十分にわたり繰り広げたという。
 集団接種では本人確認や問診など多重の事前チェックと接種後の副反応の見極めが必須だ。対応の誤りは命に関わる。会場の平穏を脅かす示威行動は到底看過できない。市によると容疑者らは「ワクチンは殺人行為」と訴え、駆けつけた署員に連れ出された。
 政府見解に基づけば集団の主張はデマやフェイク(偽誤情報)に当たるが、正論との信念があるのだろう。ネットメディア論が専門の山口真一国際大准教授によると、反ワクチン活動の国際的監視団体の調査では、ネットに流れた80万件以上のデマ投稿は、わずか12人のアカウントで、その65%が作成・拡散されていた。
 賛否が分かれる事柄の判断には多様な見解に接する必要がある。ただ、直感に訴える偽誤情報はそんな手続きを尻目に人々の感情を揺り動かす。山口准教授は、怒りや挑発に由来する偽誤情報ほど瞬時に拡散すると警鐘を鳴らした。
 思想と良心の自由は人権の骨格を成し、偽誤情報であっても、表現の自由は及ぶ。正しいことを正しく理解する。その手間を惜しんではならない。

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