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ヴァンジ美術館「触察」実践例を映画化 視覚障害者ら手で触れて彫刻鑑賞 岡野副館長が監督

 ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)の岡野晃子副館長がこのほど、視覚障害者らが手で触れて彫刻を鑑賞する「触察(しょくさつ)」を主題にしたドキュメンタリー映画を完成させた。全国の博物館関係者から、実践例を映像化した作品として注目を集める。

映画「手でふれてみる世界」の一場面。オメロ触覚美術館で、作品に触れて鑑賞する子どもたち
映画「手でふれてみる世界」の一場面。オメロ触覚美術館で、作品に触れて鑑賞する子どもたち
ヴァンジ彫刻庭園美術館の岡野晃子副館長
ヴァンジ彫刻庭園美術館の岡野晃子副館長
映画「手でふれてみる世界」の一場面。オメロ触覚美術館で、作品に触れて鑑賞する子どもたち
ヴァンジ彫刻庭園美術館の岡野晃子副館長

 映画「手でふれてみる世界」は、イタリア中部のアンコーナ市にある国立オメロ触覚美術館の活動を追う約60分の作品。同館は1993年に「視覚障害者の文化的融合と成長を助けること」などを目的に全盲の夫妻アルド・グラッシーニ氏、ダニエラ・ボッテゴニ氏が開館し、99年に国立館となった。西洋美術史に重要な位置を占める作品の樹脂や石こうによるレプリカなど、所蔵する300点以上を触って鑑賞できる。
 岡野さんは2018年に彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジ氏の導きで同館を知り、映像化を決意。監督として20年からイタリア各地で撮影を試みた。アンコーナ市内の景色を交え、同館で実施する「触察」が障害者のみならず晴眼者にも新鮮な鑑賞体験をもたらす過程を解き明かす。岡野さんは「彼らの取り組みは言葉や写真だけでは伝わらない。映像なら何度も見て、研究できる」と話す。
 世界の美術館や博物館は近年、障害者を含めた全ての人が利用しやすい施設を目指している。関係者約4万人が名を連ねる「国際博物館会議」は今年8月、「ミュージアム」の定義に「インクルーシブ(社会的包摂)」という言葉を加えた。
 映画はこの潮流を捉えた作品として評価を高める。12月上旬に京都国立近代美術館、国立新美術館(東京)で上映。来年2月の劇場公開も決まった。
 20年の国際絵本原画展で絵本原画の木製レリーフを展示するなど「触れる鑑賞」を模索する板橋区立美術館(東京)の松岡希代子館長は映画について「触って彫刻を鑑賞する人々の姿が生き生きと映し出されている。触察の意味ややり方のヒントがたくさん詰まっている」と語った。

音声ナビや白杖ガイド 視覚障害者により良い環境確保
 ヴァンジ彫刻庭園美術館は常設するヴァンジ氏の野外彫刻全てと館内の一部作品が「触察」可能。オメロ触覚美術館を参考に、2020年から視覚障害者のより良い鑑賞環境を確保する施策を行う。
  photo02 ヴァンジ氏の作品に触れて鑑賞するふじのくにユニバーサルデザイン特派員ら=11日午後、長泉町のヴァンジ彫刻庭園美術館
 作品情報を音声で案内するスマートフォン専用アプリ「ナビレンズ」を導入。園路を歩き回りやすくするための白杖(はくじょう)で触れるレールガイドや立体地図も各所に配置した。希望に応じ、学芸員が触察を交えて解説する対話型ツアーも行う。
 11日は県内の大学生らからなる県の「ユニバーサルデザイン特派員」のメンバー6人が「触察」の意義を学んだ。渡川智子学芸員は「取り組みを通じ、これまで見えていなかった作品の美点に気付いた」と施策の波及効果を強調した。

17、18日に上映会
 ヴァンジ彫刻庭園美術館は17、18の両日、映画「手でふれてみる世界」の上映会を行う。両日とも午後4時開始。定員50人で事前予約と当日の入館券が必要。参加希望者は電話かオンラインフォームで申し込む。17日は視覚障害者用の音声ガイドを貸し出す。申し込み、問い合わせは同館<電055(989)8787>へ(水曜休)。

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