逢初川の砂防ダム 2009年時点で機能不全か 盛り土造成時協議、職員「土砂で埋まっている」 熱海土石流

 熱海市伊豆山で昨年7月に発生した大規模土石流を巡り、静岡県熱海土木事務所の職員が2009年11月の盛り土造成時の協議で、逢初(あいぞめ)川の砂防ダムに関し「(土砂で)かなり埋まっている」と発言した記載が県の公文書に残されていることが12日までに分かった。少なくとも当時、下流域の人家を土砂から守る砂防ダムが機能不全に陥っていた疑いが浮上した。

土石流発生後の逢初川流域。盛り土が崩れ、砂防ダムを越えて海まで流出した=昨年9月、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
土石流発生後の逢初川流域。盛り土が崩れ、砂防ダムを越えて海まで流出した=昨年9月、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 職員が発言した09年11月4日の協議は、同年10月に河口の伊豆山港に泥水が流出したことを受けて関係する行政機関で対策を検討した。当時、上流域に大量の残土が搬入され始めていた。熱海土木の各担当者のほか、森林法を所管する県東部農林事務所や県土採取等規制条例で対応していた市の担当者も同席して情報共有した。

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 「打ち合わせ記録」と題した公文書には、熱海土木で砂防ダムの施工を担う工事課の職員が「下流の堰堤(えんてい)はかなり埋まっており、下流河川(逢初川上流)が埋塞(まいそく)している」と発言した内容が記され、同じ工事課の職員が「大雨が降ると斜面に亀裂が生じ崩壊してもおかしくない」と、新たな災害の可能性に言及したことも記載されていた。
 県砂防課によると、昨年7月の土石流発生までに、県職員や委託業者の砂防指定地監視員による砂防ダムの定期巡回では「問題ない」とされていたという。
 県は地形データの変化から、土石流で7500立方メートルの土砂をダムで止めたと説明しているが、土石流後の関係職員へのヒアリングで、砂防ダムの当時の土砂堆積状況を聴取していない。同課の担当者は「砂防ダムが満載になっていたとしても、機能しなくなるわけではない」とコメントしている。
 (社会部・大橋弘典)

代執行周辺の不撤去盛り土
市長「住民が不安」/知事「安定」説明へ

 熱海市の斉藤栄市長は12日、行政代執行で静岡県が撤去作業を進める落ち残った盛り土の周辺に別の盛り土が存在し、住民が不安に感じているとして、撤去や業者への指導を川勝平太知事に要望した。川勝知事は代執行の実施箇所以外の土砂は安定していることを、県として住民に直接説明する考えを示した。
 要望は非公開。面会後、川勝知事は取材に「住民の不安払拭(ふっしょく)が斉藤市長の思い。できる限り対応しないといけない」と述べた。県盛土対策課の望月満課長は説明の時期について「できる限り早く対応する」とした。
 県によると、盛り土が崩落した逢初川源頭部には約3万立方メートルの土砂が崩れずに残っている。このうち約2万立方メートルを代執行で撤去中。残り約1万立方メートルは地質調査などで安定性が確認されているとしている。
 斉藤市長は1ヘクタール未満の開発行為でも、市町村ではなく都道府県で手続きするよう森林法改正を国に求める方針で、県の支援を要望した。川勝知事は「1ヘクタール未満まで県の許可制にすることはさしあたって考えていない」と否定的な見解を示した。砂防ダム付近に限定している「砂防指定地」拡大の要望も「開発規制のために法適用するのは難しい」と消極的な考えを示した。
 (社会部・武田愛一郎)


逢初川の砂防ダム 砂防法に基づく土石流対策として、急勾配が河口まで続く流域の地形と崩れやすい地質を考慮し、県が1999年に設置した。事業費は1億3100万円。ダム上流側の流域全体で想定する流出土砂量を計算し、容量約4000立方メートルの大きさのダムを整備した。しかし、ダム上流全域で土砂投棄の規制をかけず、2009~10年にダム容量の10倍以上に当たる残土が上流域に投棄された。昨年7月の土石流では下流への土砂流出を防げなかった。

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